婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「凪。結婚式を挙げようか」

 初めて彼に抱かれた翌日。リビングでまったりと休日を満喫していたところ、凌也さんが唐突にそんな提案をしてきた。

「結婚式?」

 隣を振り向くと、穏やかな笑みが返ってきた。

 ウエディングドレスに憧れはある。
 でも私には呼びたいと思う家族がいない。

 凌也さんはその立場から想像するに、式はきっと大掛かりのものになるだろう。両家の差がありすぎて、彼の評判に傷がつかないだろうか。

「そうだ。ふたりきりで挙げるのもいいし、友人を招いたお披露目の食事会のようなものでもいい」

「それで、いいの?」

 予想外の返しにぽかんとする私に、凌也さんは苦笑した。

「もちろん。俺の立場なんかは考えなくていい。昨日ように凪を伴って出席する機会はこれからも多いだろうから、関係者にはそこで紹介できるからかまわない」

 そういうものなのかと、迷いが拭えない。私のことを考えての判断だとしたら、彼の足を引っぱるようで申し訳ない。

「その、凌也さんのご両親は……?」

 それでいいと、言うだろうか。

「父は凪の事情を知っているから、俺側の親族との顔合わせをどこかでできればいいと言っている。母は多少文句を言うかもしれないが、そもそも俺が結婚した時点で満足しているようだ。最近は友人らと推し活を始めたとかで、地方を飛び回っている。俺の結婚事情など、もうすっかり興味をなくしているらしい」

 一度だけ顔を合わせた、お義母様の様子を思い出す。
 お嬢様育ちだと聞いている。凌也さんも言っていたが、庶民感覚とはかけ離れたところのある人だ。もうすっかり興味をなくしているという彼の説明も、納得できてしまった。

「ありがとう、凌也さん」

 彼は、第一に私のことを考えてくれる。その優しさに、ますます恋心が大きくなっていく。

 私が招待したいと思うのは美琴くらいで、それでも凌也さんとの差はできてしまうだろう。美琴だって、知り合いのいない中では居心地の悪い思いをするかもしれない。

「私は、凌也さんとふたりでっていう案に賛成」

「そうか。じゃあ、こういうのはどうだ?」

 彼は私の選択を予想していたようで、すでにいくつかの候補を用意してくれていた。

 ふたりでパソコンを覗き込む。肩が触れ合う距離感に、あらためて両想いになったのだと胸が高鳴った。
 説明をしながら、いくつかのホームページを見せてくれる。
 新婚旅行を兼ねた国内外のリゾート地で挙げるものや、豪華なホテルで宿泊できるプランなど、どれも魅力的だ。
 あれもいい、これもいい、とふたりで語り合うほのぼのとした時間に、幸せだなあと胸が満たされていた。

「時期は今取り組んでいる案件が一段落したらになるが、いいか?」

「もちろん」

「じゃあ海外にいってふたりで挙げる方向で考えていこう」

 未来の約束をできることが、たまらなくうれしい。この先もずっと凌也さんの隣にいていいのだと思うと、胸が弾んだ。



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