婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
 それからの私は、凌也さんにどこへ行きたいか考えておくように言われてあれこれ調べていた。

 ホテルや旅行会社がホームページにアップしている写真は、どれも素敵なものばかりだ。私に海外へ行った経験はなく、見ているだけで憧れが大きくなる。

 ふと時計を見ると、時刻は二十一時を回っていた。

「まだかなあ」

 凌也さんから、帰宅が遅くなることは聞いていた。
 けれど、わかっていても寂しくなってしまう。片想いだったときは自制していたが、想いが通じてからは凌也さんに早く会いたくてたまらない。

 しばらくして、玄関からカチャリと音が聞こえてきた。
 慌てて立ち上がり、彼のもとへ向かう。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 そう言いながら、私に微笑みかけてくれる。これまでは変わりないその流れも、なんだか特別なものに見える。自分は相当浮かれているようだと、内心で苦笑した。

 彼が着替えをしている間に、食事を温め直す。
 本当は一緒に食べたい。
 でも私が遅くまで食べずに待っていると、凌也さんが表情を曇らせるからそこは諦めた。

「それでね、王道のハワイやグアムも素敵だけど、凌也さんが見せてくれたヨーロッパも憧れちゃう」

 向かい合わせに座り、食事をする彼の邪魔にならない程度に話をする。
 肌を重ねてからますます口調が砕けがちになるのは、心の距離が近づいたからだと思う。

「そうだな。新婚旅行を兼ねていることを考えたら、ヨーロッパの数か国を回ってくるのもよさそうだ」

 ただでさえ贅沢だと思っていたのに、さらに上を行く提案に目を瞬いた。

「まあ、俺は凪と一緒ならどこだっていいんだけどな」

 意味深な視線を送られて、ドキリとする。

「わ、私も、凌也さんとなら」

 自分で言っておきながら、熱くなった頬を押さえた。

「よし、ヨーロッパで考えてみようか」

「いろいろ調べておくね」

 楽しい予定に、玲奈と出くわしたことは忘れていられた。



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