婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「私に言い返すなんて、あんな何様のつもり?」

「そうじゃなくて――」

「凪の意見なんて聞いてないんだけど」

 穏便に済ませたくても、玲奈は攻撃的な態度を崩さない。私がなにを言っても、彼女は反発するだけだろう。

「……今日は、どんな用件で?」

 それならば、彼女の言い分を聞いてしまった方がいい。

「ふん。大企業の社長とお情けで結婚してもらって、いい気なもんね。どうせ私たちのあることないことうそぶいて、あの男の同情を買ったんでしょ」

「そんなことは……」

 していないとは言い切れないところが苦しい。
 決して嘘は言っていないけれど、これまでのことはすべて凌也さんに打ち明けている。

 わずかな動揺を、玲奈に見抜かれてしまう。彼女は嘲るような笑みを浮かべた。

「おかしいと思ったのよ。私のことをあれだけ悪く捉えていてたのも、凪がいろいろと吹き込んだせいね」

 そんなことはないと、必死に首を振った。
 でも、玲奈に私の言い分を聞くつもりはないらしい。

「凪なんかが、あれほどの立場のある人に好かれるわけがないもの。素で好きだとかいうなら、あの男どんな悪趣味をしてるのよ」

「りょ、凌也さんを、悪く言わないで」

 私はなにを言われてもいいけれど、彼を巻き込むのはやめてほしい。

「そういうところが生意気だっていうの」

 かえって玲奈の怒りを買ってしまっても、そこだけは譲れない。

「彼は関係ないでしょ」

「関係? あるに決まってるじゃない。凪の言葉に影響されていたとはいえ、さんざん私をコケにしたのよ。あんたなんかを優遇しているのも気に入らないし」

 顔をゆがめてそう言いきった玲奈は、それからニヤリと笑った。

「本条テクノロジーズ……確かに大手だけど……ねえ?」

 玲奈の意味深な物言いと視線に、心がざわめく。
 なにが言いたいのかと、不安と疑いに眉間にしわを寄せた。

「凪、連絡先を教えなさいよ。あの男に関して、面白いことを教えてあげられるかも」

「凌也さんの……?」

 せっかく縁を断ち切ったというのに、再びつながりができてしまうのは受け入れがたい。
 でも、彼に関すると言われたら無視はできない。
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