婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
【さっさと離婚しなさいよ】

 玲奈から届いたメッセージに、気が重くなる。

 街中で彼女と出くわして三日が経つが、毎日こんな内容が送られてきている。拒否したくなるものの、凌也さんに関してなにか言われるかもと思うと踏ん切りがつかない。

「はあ」

 リビングのソファーに座り、届いたばかりの玲奈からのメッセージに気持ちが沈んでため息が漏れた。

 彼女は父の秘書をしているというのに、時間も曜日も関係なくこうしてメッセージを送ってくる。
 私がまだ働いていた頃、玲奈に関して同僚らが話しているのを耳にしたことがある。

『だって、しょうがないわよ。実川さんは社長の娘だもの』

 自分のことを言われているのかと咄嗟に身を隠したが、しゃべっているのはまったく接点のない人たちだ。

『あの人、完全に腰掛仕事でしょ?』

『そうそう。面倒な業務はすべて私たちに投げて、自分はいいとこ取りばっか』

 よく見ると、彼女たちは秘書課の人間だった。ということは、玲奈の話なのだろう。

 パーティーだ、会食だと、めかし込んだ玲奈が父に付き添う姿を何度か見たことがある。
 さらに続いた女性らの会話から察するに、玲奈がそうして出向くのは若い男性も出席している場ばかりだという。

『男漁りは、ほかでやってよ』

 怒りを隠さない彼女たちの様子に、玲奈の態度はさんざんなのだろう想像がついた。

 勤務中に私的なメッセージを送るのも、きっと当然のようにしているのだろう。

「私が不幸になれば、玲奈は満足するのかな」

 凌也さんはここのところますます多忙になり、日付が変わる頃に帰宅している。そんな彼に、まだ実害も出ていないのに玲奈のことで相談するのは憚られた。



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