婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
 鏑木の名前が出てくることは、想定していた。
 三峰に赴任した梶原医師が表立って動きだしたのは、先代の鏑木が亡くなった頃だった。隙を突くようにして事を進め、あっという間に三峰内の情勢をひっくり返した。

『改革には、強引にでもしがらみを壊さないと無理だ』

 梶原医師の放ったその言葉は、よく覚えている。

 もちろん、変化を起こすには彼ひとりの力では無理だ。副院長は、そのもっとも近くにいた協力者だった。

「院長は、このタイミングをうかがっていたんでしょうね」

 あの病院は、完全に院長派と副院長は二分されている。事を起こすには、副院長が不在が絶対条件だったのだろう。
 院長が鏑木彰と以前同様の関係を築いたのなら、まだ契約を交わしていない今がラストチャンス。

 院長と実川と鏑木。癒着を疑うのなら、この三者の方だろう。三つ巴の関係の中では、相当な金が動いているに違いない。

「おそらく院長と鏑木さんと実川社長は、昔からつながっているはず。ですが悔しいことに、なにひとつ証拠を掴めていないんです」

 実の息子ですらその実態を把握しきれていないほど、院長は慎重な人なのか。
 だが、長く続いているだろうと思われる関係だ。どこかに突破口はあるはず。

 わかっていることのすり合わせを終え、さらに今後について話し合う。
 あらかたの方針を確認し終え、店を後にした。


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