婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「話はわかった」

 私が落ち着いたタイミングで、彼が言う。

「逃げ出したいと思うなら、俺が助けてやる。後のことも心配いらいない。君の家族や鏑木がなにも言ってこられないように守ってやるから」

 信じられない気持ちで、本条さんを見つめる。

「……どうやって?」
 その先を知りたい。
 本当にあの家から、あの家族から逃げられるのだろうか。

「まずは、鏑木との婚約を破棄させる。これは相手がそう言いだした上に不貞までしているんだ。証拠もすぐに集まりそうだから、難しくはないだろう」

 証拠と言われて、考えを巡らす。

「彼が女性を連れて帰るときや、予定を変更して外で会ってくるようなときは、私にメッセージを送ってきているんですが……」

 おそらく、私への当てつけだったのだろう。文面には、わざわざお相手の名前まで書かれている。外での行動はどうかわからない
が、メッセージ通り自宅に女性を連れてきたことは何度もあった。

 スマートフォンを取り出して、その一部を本条さんに見せる。
 彼が自宅に女性を招いた際には、食事や掃除などその方も含めてお世話もさせられていた。関係を確信させる証拠はそこかしこにあり、確実に親密な時間を過ごしていたとわかっている。

 一部ぼやかしながらそんなことを話して聞かせると、本条さんは不快そうに眉間にしわを寄せた。

「調べるまでもなさそうだな。その件については、俺の方で弁護士に依頼する。すぐに片が付くだろう」

 本当に?と不安で彼を見つめれば、「大丈夫だ」とうなずき返してくれた。

 不思議と、この人の言葉は信じてもいいのではと気持ちが傾いていく。

 縋りつきそうになるが、再び義母と義妹からの責め苦がよみがえり踏みとどまった。

「あ、あなたに、頼るわけにはいきません」

「なぜだ?」

 首を横に振る私を、本条さんは不思議颯に見つめてくる。

「彰さんとの縁談がなくなっても、実家に戻ることは許されません。仕事も退職させられているので……」

 私の居場所は、もうどこにもない。

「それに、私にはあなたに返せるものがありません」

「そのことで提案がある」

「提案?」

 なにか無理難題でも押し付けられるのだろうか。この人に気を許しすぎていたと、わずかに身を強張らせた。
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