婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
 父は本条について、ありもしない不正をでっち上げて三峰側にささやいたのだろう。

 三峰は実川にとって、最も大きな取引相手だ。私への恨みもあるだろうが、取引先を本条に奪われるわけにはいかないという思いも強そうだ。

 凌也さんが対応しているのだし、父らの言い分は間違いだとすぐに晴れるはず。
 けれど一度広まりかけた悪評を、完全に払しょくするのは難しいかもしれない。

『勝手ばかりしている、凪のせいよ。再三、私が別れるように忠告してあげたっていうのに、生意気にも反抗ばかりして』

 私のせいで、凌也さんに迷惑がかかってしまう。

『クリスマスの夜に、旦那に離婚を突きつけられたりして。ああ、でも安心してよ。鏑木さんとの再婚約の話を、パパが進めているみたいだから』

「そんな……」

 言いたいことだけ言って、通話がプツリと切られる。

 凌也さんはもう玲奈の近くにはいないようだし、それほど経たないうちに帰ってくるだろうか。
 玲奈の言う通り、さすがに離婚を切りだされるかもしれない。

 いくら私を想ってくれていたとしても、凌也さんが抱えるものは大きすぎる。今回のことで会社に影響が出れば、彼の責任問題に発展しかねない。

 私から離婚を申し出たところで……と、考えただけで胸が苦しくなる。

「どうしたらいいの?」

 遅すぎとしても、凌也さんと別れるべきだろうか。そうでなければ、父や玲奈は今後も凌也さんの邪魔をしかねない。

 頭の中で、〝離婚〟の二文字がぐるぐると回る。
 凌也さんにとって、なにが最善になるのか答えが見つからない。とにかく謝らなければと、焦りを募らせていった。
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