婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「まず鏑木についてだが、凪を見下して邪険にしてきたあいつを、俺が許すわけがないだろ?それから、凪の実家についてもだ」

 出会ったときから、凌也さんが彼らに怒っていたのは知っていた。この人は正義感の強い人なのだと、信頼するきっかけにもなっていた。

「彼らは、三峰に赴任した医師とうちとの癒着をでっち上げているようだが、事実無根だ」

 ここまでは大丈夫か?と、顔を覗き込まれる。

「それは信じていたから」

「ありがとう」

 うれしそうに微笑んだ彼は、私の額に口づけを落とした。

「大事な凪との約束をキャンセルしてでも俺が動いたのは、この件で病院を追われた梶原医師を守るため。彼は、日本の医療になくてはならい存在だ」

 詳しくはわからないが、凌也さんの語り口調からかなり優秀な医師なのだろうと想像する。

「彼は、俺と目指しているものが近いんだ。地方の医療を守りたい。そのために奮闘している。三峰記念病院はあの地域の拠点となる病院だろ?」

 コクリとうなずく。

 病院があるのは、私の地元だ。あの辺りでは一番大きな総合病院で、お年寄りなんかは三峰にかかればもう安心だと頼りにしていた。

「だが、あの病院はせっかく若手の医師が赴任しても、すぐに離れていく者が多い。それに、古株の経営陣は実川メディカル以外の最新機器に似向きもしない」

 詳しいことはわからないが、数字の上で三峰は実川の一番重要な取引相手だった。

 一瞬口を開きかけた凌也さんが、わずかに逡巡する。
 私の実家も関係していることだから、話しづらいのかもしれない。だから、大丈夫だと伝えるように彼を見つめた。

「かわいい」

 一瞬、なにを言われたかわからなかった。ぽかんとする私に、凌也さんが再び額に口づけてくる。

 遅れて頬が熱くなった私に、彼が満足そうな顔をした。

「凪に心配をかけないように立ち回っていたつもりだが、知らないことで逆に不安にさせてしまったのは悪かった」

 凌也さんが謝る必要はないと、首を横に振る。

「話せる範囲で明かすと、三峰と実川と鏑木の付き合いは長い。とはいえ代替わりもしていることだし、純粋な信頼関係だけで成り立つ関係とは思えなかった」

 つまり、本当に癒着を疑うべきなのはこの三者だと言いたいのだろうか。
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