婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「凪は、実父に疑いをかけられて気を悪くしないか」
「それはないです。私情に関係なく、不正を見過ごしていいわけがありません」
父や元婚約者のことを思い浮かべてみたが、なさけないことに不正もあり得ると感じてしまう。
「今はその綻びを探っているところだ。まあ、それがなくても鏑木の表面上の評判など、簡単にはがせてしまうだろうけどな」
対抗する算段はつけられているが、証拠が十分と言えるほどではないらしい。
ただ、少し突いただけで鏑木さんについてはあちこちから不満が噴出しているようだ。残念ながら、こちらもあり得るだろうと容易に想像がついた。
「癒着……」
以前の私なら無縁の言葉だったが、これでも政治家の元婚約だ。不正や汚職なんて言葉をテレビで耳にするたびに、敏感に反応してしまう。
鏑木さんは私を完全に見下していたから、自宅ではずいぶん無防備な姿を見せていた。
例えば、様々な女性を連れ込んで関係を持っていたこと。外で会えば誰に見られるかわからないからと自宅に招き入れていたが、果たしてそれで安全だと言えるだろうか。
それに、事務方に渡された資料を無造作にテーブルに放置するのも日常的にしていた。しかも彼の仕事部屋だけでなく、女性と過ごすこともあった寝室にもだ。
「凪?」
「ちょっと待ってください。気になることがあって」
凌也さんと密着している現状を忘れて、引っかかっていることがなにかを必死に考える。
「……テーブルに、書類が放置されていたんです」
頭の中を整理したくて、思い出したままを言葉にしていく。
「駅前の再開発案に、小学校の改修計画。それから、名簿も何度か見かけて……そうだ!」
ハッとして顔を上げると、真剣な表情の凌也さんと視線がぶつかった。
「たぶん、あれは献金の名簿だったはず」
「そういうものを、自宅とはいえ他人の出入りする場にも平気で置いていたと?」
コクリとうなずき返す。
「鏑木さんは外では好青年を装っていましたけど、本来は雑なところのある人で」
「他人には厳しく、自分には甘い人間なんだな」
ズバリ言ってのけた凌也さんに、曖昧な笑みを返して続ける。
「散らかった書類を見かけるたびに、私が片づけていたんですけど。その中に、個人献金の名簿があったんです。婚約中にご挨拶させていただいた相手の名前がある中で、父個人の名前もあって」
昔から懇意にしていたくらいだから、会社として献金をしていたとしてもおかしな話ではない。さらに父個人でともなると、わずかな違和感を覚えた。
「社長が個人で、か」
思案顔になる、凌也さんを見つめる。
それから彼は、ニヤリと笑った。
「いろいろなところから情報を集めているが、もしかしたら不正を暴けるかもしれないな」
そんな表情も素敵だと、状況を忘れて頬を熱くした。
「それはないです。私情に関係なく、不正を見過ごしていいわけがありません」
父や元婚約者のことを思い浮かべてみたが、なさけないことに不正もあり得ると感じてしまう。
「今はその綻びを探っているところだ。まあ、それがなくても鏑木の表面上の評判など、簡単にはがせてしまうだろうけどな」
対抗する算段はつけられているが、証拠が十分と言えるほどではないらしい。
ただ、少し突いただけで鏑木さんについてはあちこちから不満が噴出しているようだ。残念ながら、こちらもあり得るだろうと容易に想像がついた。
「癒着……」
以前の私なら無縁の言葉だったが、これでも政治家の元婚約だ。不正や汚職なんて言葉をテレビで耳にするたびに、敏感に反応してしまう。
鏑木さんは私を完全に見下していたから、自宅ではずいぶん無防備な姿を見せていた。
例えば、様々な女性を連れ込んで関係を持っていたこと。外で会えば誰に見られるかわからないからと自宅に招き入れていたが、果たしてそれで安全だと言えるだろうか。
それに、事務方に渡された資料を無造作にテーブルに放置するのも日常的にしていた。しかも彼の仕事部屋だけでなく、女性と過ごすこともあった寝室にもだ。
「凪?」
「ちょっと待ってください。気になることがあって」
凌也さんと密着している現状を忘れて、引っかかっていることがなにかを必死に考える。
「……テーブルに、書類が放置されていたんです」
頭の中を整理したくて、思い出したままを言葉にしていく。
「駅前の再開発案に、小学校の改修計画。それから、名簿も何度か見かけて……そうだ!」
ハッとして顔を上げると、真剣な表情の凌也さんと視線がぶつかった。
「たぶん、あれは献金の名簿だったはず」
「そういうものを、自宅とはいえ他人の出入りする場にも平気で置いていたと?」
コクリとうなずき返す。
「鏑木さんは外では好青年を装っていましたけど、本来は雑なところのある人で」
「他人には厳しく、自分には甘い人間なんだな」
ズバリ言ってのけた凌也さんに、曖昧な笑みを返して続ける。
「散らかった書類を見かけるたびに、私が片づけていたんですけど。その中に、個人献金の名簿があったんです。婚約中にご挨拶させていただいた相手の名前がある中で、父個人の名前もあって」
昔から懇意にしていたくらいだから、会社として献金をしていたとしてもおかしな話ではない。さらに父個人でともなると、わずかな違和感を覚えた。
「社長が個人で、か」
思案顔になる、凌也さんを見つめる。
それから彼は、ニヤリと笑った。
「いろいろなところから情報を集めているが、もしかしたら不正を暴けるかもしれないな」
そんな表情も素敵だと、状況を忘れて頬を熱くした。