婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「準備はいいか、凪」

「はい」

 年が明けてしばらく経った今日は、これから凌也さんとともに仕事関係の立食パーティーに出席する予定だ。同業者やその関係する企業などが集まり、新年の挨拶と意見交換を兼ねた場だという。

「実川メディカルも三峰の経営陣も鏑木も、出席予定になっている。なにかを仕掛けてくるには、絶好の場だろう」

 それをわかった上でこうして乗り込むからには、凌也さんの中に勝算があるのだろう。
 私も父や鏑木さんについて、見聞きして覚えていることはすべて彼に伝えてきた。それが少しでも凌也さんの役に立てばと願っている。

 タクシーに乗り込み、会場となるホテルへ向かう。

「今回は、絶対に凪をひとりにしないから安心していい」

「はい」

 本条からは、社長秘書の一真さんと副社長も参加する。万が一なにかがあったときは、彼らも援護してくれると思うと心強い。

 ホテルに到着し、凌也さんにエスコートされながら会場に足を踏み入れる。一真さんたちとはすぐに合流できてほっとした。
 初めてお会いする副社長とも挨拶を済ませ、会場内の様子をうかがう。凌也さんがある程度自由に動けるよう、挨拶回りは副社長が前面に立ってくれている。

「実川社長も来ましたね」

 しばらくした頃、一真さんが小声で伝えてきた。
 父は今日も玲奈を伴っている。彼はすぐに知り合いに声をかけられ、会場の隅で話し始めた。

 秘書として同伴しているだろうに、今日の玲奈は明るい色味で豪華に着飾っている。義母に似た美人だから、なにを着てもよく似合っている。しかし新年とはいえ、仕事というにはずいぶん華やかすぎるように思う。

 玲奈は父を放って歩きだし、顔見知りと思われる同年代の男性に声をかけた。
 秘書課に所属していた女性たちがこぼしていた愚痴の意味が、わかった気がする。

「あれで秘書としての業務は遂行できているんですかね」

 人脈づくりになるのならいいが、相手の肩を気安く叩いている彼女の様子からはとてもそんなふうに見えない。
 呆れた声で一真さんが言えば、凌也さんも「まったくだ」と同意した。

 このふたりにもそう見えているのだから、この場で同じように思っている人がほかにもいるだろう。実川の評判に関わるかもしれないが、家を出た私が気にかけても仕方がないと、小さく首を振った。
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