"Mr&Mrs Ogiwara detective office" 事件簿1
翔はさよを憎んだ。自分の境遇と重ねてたった一人の妹を想うさよの演技に騙された悔しさ、そのせいで自分の大切な人に迷惑をかけてその結果引き裂かれたのだ。

そして翔はすべての借金を返し終えるために、また智子に迷惑を掛けないようにと身を粉にして働いた。

ただ智子ともう一度会える日を心の支えに、さよに対する憎しみは封印した。

自暴自棄にならずに済んだのは愛する智子の存在があったからだ。

台東区の会社の皆も優しい人達ばかりで、いつも翔を気遣ってくれた。

お昼にはおにぎり2個だけを持ってくる翔におかずやら果物などを差し入れてくれる。

腐らずに働けているのはそう言う周りの温かい人達の応援があるからだ。

さよに騙されて450万という借金を背負わされてから2年半以上の月日がたっていた。

翔は智子の兄裕一郎に紹介された会社で配送の仕事をしていたのだが、半年ほど前に会社が廃業する事になり、その後始末が済んだ2カ月前から宅配会社に職を得た。

そこの社長が紹介してくれたのだ。翔は真面目に一生懸命働いていたのを社長はちゃんと見ていたと言ってくれて紹介状も持たせてくれた。

住むところも変わらずにすむ、近所の営業所に勤めることができた。

社長はもう”あと半年だ。がんばれよ”と言って送り出してくれた。

翔は社長に何度も頭を下げて新しい職場に向かったのだった。

東京は人情も薄いと聞いていたがここ台東区の下町の人達は皆人情に厚い人達が多い。

故郷の甲州人の様だ。義理人情に厚い甲州人だが、翔のように騙されるバカもいるのだと自嘲した。

翔はあと半年を目指して、新しい職場で頑張ろうと、無理を言って裕一郎に送ってもらった智子の写真を見つめた。

智子はブドウを両手に持って明るい笑顔をカメラに向けている。

最高に可愛い智子の写真は翔の元気の源なのだ。

この腕に智子を抱きしめるまで愚痴をこぼさずに働くのだと翔は前を向いて歩き始めた。
< 36 / 52 >

この作品をシェア

pagetop