"Mr&Mrs Ogiwara detective office" 事件簿1
インターフォンがなかったのでドアをノックしようとして手を挙げたその時

「智ちゃん?」

という懐かしくて愛しくて優しい声が智子の名前を呼んだ。

横を向くと、翔がびっくりして目を大きく開けて手にスーパーの袋をもって立っていた。

2年半ぶりの翔は少しやせたのか顔は引き締まって精悍さを増していた。

翔は前から部屋で腕立て伏せや公園で懸垂などをやって体を鍛えていたので贅肉などない引き締まった体躯をしていたが、相変わらず惚れ惚れするほどいい男だ。

智子はしばらく呆けたように翔を見つめていたが、はっとして

「翔ちゃん!」といって抱き着いた。

翔はスーパーの袋を落として智子を抱きとめた。

「どうして智ちゃん、裕一郎さんは全部返済するまでは会わせないと言っていたのに…」

智子は泣きながら

「あのね、お兄ちゃんがあと半年で完済するから二人の気持ちが変わらなければ、翔ちゃんを支えてやれって言ってここを教えてくれた。でも、翔ちゃんは私なんか忘れてるかもしれないってその時は一人でかえって来いって」

「忘れるはずない。いつもいつも智ちゃんの写真を見てガンバレガンバレって自分を励ましていたんだ。完済したら絶対に会いに行くって決めてた」

「本当?嬉しい。よかった一人で帰る事にならなくて、あと半年だね。二人で頑張ろう」

「うん、ありがとう。でもとりあえず部屋の中に入ろう。そう言えば卵買ってきたのに落としてしまって割れてるかなあ」

翔は苦笑しながらも、スーパーの袋をもって智子の手を握ったまま鍵を開けようとして焦っていた。

智子はくすくすと笑って、”翔ちゃんゆっくりでいいよ”と言った。

翔は手を離せば智子がどこかに行ってしまいそうで怖かったのだ。

翔の部屋の中はがらんとしていた。

ビールのケースの上に板を乗せただけのテーブルで食事をしているらしくソファーもない部屋は、人が住んでいるとは思えないように空虚で寂しい空気が漂う部屋だった。

部屋は2つあるのだがキッチンとダイニングとあと4畳半と6畳の洋室の部屋が続いている。

カーテンも寝室にしている6畳の部屋にだけつけてある。

6畳の部屋には洋室だが押し入れもある。そこの窓の外にはベランダがあってそこに洗濯物が干せるようになっているのだが、翔は室内に洗濯物を干している。

どうせ下着と仕事に着る制服しか洗うものはほとんどないという事だ。

冷蔵庫も洗濯機もテレビも、貰い物だそうだ。会社の人が買い替えるときにくれたのだが、テレビは見る暇なんかない。

朝にニュースや時間を知るためにつけている位だと言って笑っていた。

翔は6畳の部屋に蒲団を敷いて寝ている。布団も敷いたままになっている。
< 39 / 52 >

この作品をシェア

pagetop