棘ある花も愛されたい

わたしは周りをキョロキョロしながら、本当に座って待ってていいのかと戸惑いつつ、ソファーにゆっくり腰を下ろし、ダウンジャケットを自分の横に丸めて置いた。

床の所々には、雑誌や段ボールなどが置かれており、リビングに置かれた大きな棚は、以前は何かが飾られていたのかもしれないが、今は何も置かれず片付けられている。
男性の一人暮らしにしては、綺麗な部屋だと思った。

そして、テーブルの隅には、一冊の本が置かれており、その表紙に"日置禅"と書かれている事に気付いたわたしは、その本に手を伸ばした。

「"ブラック·ホーム"···」

黒い背景に白い輪が描かれた表紙に"ブラック·ホーム"というタイトルと、"日置禅"という著者の名前。
それは紛れも無く、禅さんの小説だった。

実際に本を手に取って見ると、本当に禅さんは作家なのだと思わされる。

そしてわたしは最初のページを開き、少し読み進めていった。

すると、「お待たせー。」と言いながら禅さんが戻って来て、わたしは反射的に本を閉じてしまった。

「あれ?読んでたの?」

そう言いながら、禅さんは湯呑みに淹れた緑茶を差し出してくれる。
わたしは本をテーブルに戻し、湯呑みを受け取りながら「すいません、勝手に。」と言った。

「ううん、いいんだよ。それ、まだサンプルなんだけどね。」

禅さんはそう言い、自分の湯呑みを持ちながらわたしの隣に腰を掛けた。

「サンプルなんですか?」
「うん、これから出版するやつだからね。最終確認の為に、こないだ担当者が持って来たんだ。」
「何か、実際に本を見ると、本当に禅さんって作家さんなんだなぁって、思いました。」

わたしがそう言うと、禅さんは「ちょっと疑ってたの?」と言って笑う。

わたしは「疑ってたわけではないんですけどね。」と言うと、禅さんに淹れてもらった緑茶にそっと息を吹き掛け、ゆっくりとすすった。

すると寒さから冷えていた身体が、中から温まるのを感じる。
それと共に気持ちもホッと和んでいくような気がした。

それからわたしは緑茶をすすりながら、部屋を見回し「お家、広いですよね。」と言う。
禅さんは「まぁね。父が遺してくれた家なんだ。」と言いながら、わたしと一緒に部屋を見渡し、ソファーの背にもたれ掛かった。

「じゃあ、ご実家なんですか?」
「うん。5年前に父が亡くなってから、一人だけどね。」
「そうだったんですね······」
「うちは父子家庭だったんだ。それで父と二人で生活してきたけど、無理が祟ったのか、父が病気で倒れて···、病気が見つかってから亡くなるまでが早かったから、あまり親孝行してあげられなかったなぁ。」

禅さんはそう言って、やり切れないような表情で宙を見上げていた。
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