棘ある花も愛されたい
「そんな事ないと思いますよ。息子さんが作家だなんて、お父様、鼻が高かったんじゃないですかね。」
「そうかなぁ〜、だといいんだけど。」
「···実は、わたしは母子家庭でした。」
禅さんの話の流れから、わたしがそう言い出す。
すると、禅さんは「えっ、そうなの?」と言い、わたしの顔を覗き込むように前のめりになった。
「はい、幼い頃に両親が離婚して。でも、わたしが14の時に母は再婚しましたけどね。それでも、わたしからしたら、母子家庭のままのような感じでした。母の再婚相手を"父親"だと思った事はありませんでしたから。」
わたしはそう言うと、湯呑みを両手で持ち上げ、緑茶をすすった。
「そうだったんだね······」
「それから母は、母というよりも、女になってしまいました。だから、わたしは蚊帳の外状態で···、自分の家なのに、自分の居場所を奪われたような気分でした。」
わたしはそう話しながら、何でこんな話を禅さんにしてしまったのだろうと思った。
しかし禅さんは、迷惑そうな態度を取るわけでもなく、可哀想という雰囲気を出すでもなく、ただ静かにわたしの話に耳を傾けてくれていた。
「それからですね···、"自分の居場所"が欲しいと思うようになったのは······」
宙を仰ぎながら、わたしがそう言うと、禅さんは「自分の居場所、かぁ···」と呟いた。
すると今度は禅さんが「実はさ、紗和ちゃんとはちょっと違うけど、俺の母親も、女になって家を出て行ったんだ。」と話し始めた。
「えっ。」
「俺が小学1年生の頃だったかなぁ。好きな人が出来たから一緒に居られなくなったって。でも、いつか迎えに来るからねって···、俺にそう言って出て行った。」
そう言って視線を落とす禅さんは、切なげな表情を浮かべていた。
「でも結局、迎えには来なかった。俺は子どもながらに、いつか迎えに来る事を信じて、ずーっと待ってたんだけど···、母は来なかった。だから、母は俺よりも好きになった男の方が大事だったんだなって、ある程度大きくなってから思って、それから女性というものがこわくなったんだ。」
禅さんはそう言った後、ハッとしたように「あ、でも!」と言い、続けて「紗和ちゃんは別だよ?こわいだなんて、思ってない。」と言って、優しく微笑んだ。
「本当ですか?」
「本当ほんと!こわいなんて思ってたら、家に招かないよ。失う時の寂しさを知ってるからこそ···、そんな安易に誰でも家に上げたりしない。」
そう言う禅さんの言葉には重みがあって、失う寂しさを知るわたしには、とても共感出来る言葉だった。
わたしだってそうだ。
安易に誰にでも声を掛けたり、家に上げたりしないし、何とも思っていない男性の家にお邪魔したりなんかしない。
だから、禅さんのお家にお邪魔して、これから禅さんの為に夕飯を作ろうとしている
わたしは、つまり"そういう事"なのだと自分でも分かっていた。