棘ある花も愛されたい
すると、少ししんみりしてしまった雰囲気を切り替えるように、禅さんは「さて!」と言い、立ち上がった。
「そろそろ夕飯準備始めようか!腹減ってきちゃった!」
禅さんはそう言って笑う。
わたしも「そうですね。そろそろ準備始めましょうか。」と言うと、湯呑みをテーブルへ置き、立ち上がった。
「俺、ご飯炊くね!」
「はい、ありがとうございます。」
「紗和ちゃんの飯、楽しみだなぁ〜!」
「あまり期待し過ぎないでくださいね。本当に、ごく普通ですから。」
「普通でいいんだよ!普通って、最強なんだよ?」
そんな会話を交わしながら、わたしたちはキッチンへと向かう。
そして禅さんは、ご飯を炊く為にお米を研ぎ始め、わたしはまず豚汁の準備に取り掛かった。
二人で並ぶキッチンは何だか新鮮で、わたしにとっては初体験だった。
(禅さんと一緒に居ると、初めてな事ばかりだなぁ。)
そんな事を思いながら、わたしは人参の皮をピーラーで剥いていく。
そのわたしの姿を禅さんは横でお米を研ぎながら、「何かいいね。自分んちで紗和ちゃんが料理してるの。」と言い、嬉しそうに微笑んでいた。
「やっ、あまりジロジロ見ないでくださいね。恥ずかしいんで。」
「えー、見ちゃダメ?」
「ダメですよ。ご飯のセット終わったら、あっちでゆっくりしててください。」
人参の皮を向き終え、包丁を持ちながらわたしがそう言うと、禅さんは不満そうに「えー、一人で座って待ってるのは落ち着かないよ。」と言った。
それから炊飯器の炊飯スイッチを押し、自分の仕事を終えた禅さんは、わたしの隣へやって来て、野菜を切るわたしの姿を眺める。
わたしはその視線が気になり、一度手を止めると、目を細めて禅さんを見上げた。
「···ダメって言ったじゃないですか。」
「やっぱり見られてるのは恥ずかしい?」
「そりゃあ、そうですよ。」
「紗和ちゃんって、可愛いよね。」
そう言う禅さんの言葉に過剰に反応してしまい、自分の顔が火照るのが分かる。
(わたしが···可愛い?)
「可愛いなんて···、初めて言われました。」
「えっ?!嘘だぁ!」
「本当ですよ。わたし、いつも"取っつきにくい"とか、"棘がある"とか、苦手意識持たれやすいので······」
わたしがそう言い、照れ隠しの為に再び野菜を切り始めると、禅さんは「んーー」と唸りながら、何かを考えているようだった。
「それは、みんなが紗和ちゃんをちゃんと見ようとしてないからじゃないかな?俺は、紗和ちゃんが取っつきにくいとか、棘があるって思った事ないよ?」
まさかの禅さんの発言に、自分の体温が上昇していくのを感じる。
こんなにも恥ずかしい言葉を男性に言われたのは、初めてだ。