棘ある花も愛されたい
「いつまでも健気に待ってるのは、女々しくて、自分が嫌になるんです。それに···、わたしが彼に執着していたのは、きっと···自分の居場所を失くすのが、こわかったからで···。わたし、彼を自分の居場所だと、思いたかったんです。でも、それもやめました。」
わたしはそう言って、微かに笑って見せた。
無理をしていないと言われれば嘘になる。
しかし、わたしの中で何かが変わり始めている事に、わたし自身が一番気付いていた。
わたしの中に、今一番存在しているのは、諒祐ではない。
わたしの中に今一番強く存在しているのは···―――
「ねぇ、紗和ちゃん?」
どこでも無い場所に視点を置き、ぼんやりするわたしの名を禅さんが呼ぶ。
わたしがふと禅さんの方に視線を向けると、禅さんは真剣な眼差しでわたしを真っ直ぐに見つめていた。
「···紗和ちゃんが、嫌じゃなければだけど···、ここが、紗和ちゃんの居場所だと、思ってくれてもいいよ?」
「···えっ?」
「ほらっ、自分の居場所が欲しかったって、紗和ちゃん話してくれたじゃない?だから···、その居場所に、俺がなれるなら···なりたいなぁって。」
思い掛けない禅さんの言葉に、わたしはつい箸を落としてしまいそうになる。
(禅さんが···わたしの居場所に?)
すると禅さんは、固まるわたしの様子を見て、慌てたように「あ!いや、嫌な気持ちにさせてたら、ごめん!」と謝ってきた。
「えっ!そんな、嫌な気持ちになんてなってないです!」
「本当?」
「はい、ただ···ちょっと、ビックリしただけで······」
わたしはそう言い、自分を落ち着かせる為に麦茶を飲んだ。
「ビックリさせてごめん!でも···、冗談とかじゃなくて、本気でそう思ったから言った。俺、人を期待させて傷付けるような嘘は、言わないから。」
―――人を期待させて傷付けるような嘘···
それはまさに禅さんが傷付いてきた過去を思わせるフレーズだった。
わたしは禅さんの気持ちが嬉しくて、つい口元を緩めてしまう。
そして、禅さんの目を見て「ありがとうございます、嬉しいです。」と伝えた。
禅さんはわたしの言葉を聞き、ホッとしたように穏やかに微笑むと、長い前髪をかき上げ「あー、早く食べないと、せっかくの美味しい夕飯が冷めちゃう!」と言って焼き鮭に箸を入れていた。
わたしはそんな禅さんの様子に心が温まると、玉子焼きを一切れ箸で掴み、口へと運ぶ。
いつも通りのほんのり甘い玉子焼きではあったが、何故か今日はいつもよりも甘く感じてしまうのだった。