棘ある花も愛されたい

夕飯を済ませると、禅さんは「紗和ちゃんが作ってくれたから、片付けは俺がやるよ!」と言い、後片付けを全て担ってくれた。

わたしはそんな禅さんの後ろ姿を眺めながら、リビングのソファーに腰を掛けている。

何だか不思議な気持ちだ。
幼い頃から母が居ても寂しさを感じ、諒祐と居ても満たされない気持ちで生活を送ってきたわたしが、今ここで心穏やかに過ごしている。

わたしはいつも、母の背中を見ても、諒祐の背中を見ても、寂しさから甘えたい衝動にかられ、しかし上手く甘えられない自分に葛藤してきた。

それが今、禅さんの背中を見ても寂しさを感じない。
どちらかといえば、愛おしさから抱きついてしまいたい気持ちが湧き上がってくるのだ。

まだ知り合って間もないのに、こんな気持ちになるのはおかしいだろうか。

わたしはただ、諒祐の代わりが欲しいだけなのだろうか―――···

そんな事を考えていると、禅さんが「終わったよぉ!」と、爽やかにこちらを振り返った。

「ありがとうございます。」
「いやいや、こちらこそありがとうだよ!」

そう言いながらこちらへ歩み寄って来た禅さんは、「ふぅ〜」と言ってわたしの隣に腰を落とした。

時刻はそろそろ21時を迎える。
わたしは禅さんの家の古い壁掛け時計を見上げると、「今日は、これからまだお仕事するんですか?」と禅さんに尋ねた。

「んー、少しだけね。」
「それじゃあ、お邪魔になっちゃうので、わたしそろそろ帰りますね。」
「えっ、そんな気にしなくて大丈夫だよ?」
「でも、わたしもまた明日仕事なので。」

わたしはそう言い立ち上がると、ソファーに置いていたダウンジャケットを手に取った。

「そっか。じゃあ、家まで送るよ。」
「大丈夫ですよ。すぐ近くなので。」
「いやいや!こんな夜に女性一人で帰すわけにはいかないよ!」
「変な男が彷徨いてるかもしれないから、ですか?」

わたしがそう言い、クスッと笑うと、禅さんは「そうそう!」と言いながらソファーから立ち上がった。

そして帰る支度を済ませたわたしは、禅さんと共に禅さんの家をあとにする。
外は、既に雪は止んでいたが、地面にはフカフカの雪が踏まれずに積もった状態になっていた。

「うわっ、こりゃ除雪しなきゃいけないな。」

そう言いながら、禅さんは苦笑いを浮かべる。
禅さんは玄関横に立て掛けてあったスコップを手に取ると、軽く除雪し、わたしが歩けるスペース分くらいの道をつくってくれた。

「ありがとうございます。」
「こっからは、俺が先に歩いて道をつくるよ。」

禅さんはそう言うと、わたしの前を歩きながら、雪を踏み固めて道を作ってくれる。

(この人は、どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。)

今まで誰かに尽くされた事がないわたしは、そんな些細な事でさえ、胸をときめかせてしまうのだった。
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