傷ついた王子は森の魔女に癒される
 どれだけそのままでいたかはおぼろげだった。
 苦しげな声が聞こえてきて初めてファリエルはリリアナをきつく抱きすくめたままだったことに気づくと、腕の力を弱めた。

 そっと唇を放して、見開かれたアクアブルーの瞳を覗き込む。

「リリアナ、君を愛している。君を忘れてもずっと」
「っ……!」

 腕に抱いた身体から、たちまち力が抜けていく。糸の切れた操り人形のようにリリアナはその場にへたり込んだ。
 両手で顔を覆い、手の中で叫び出す。

「ファリエルさん、ファリエルさん……! うわああん……!」
「リリアナ……!」

 ファリエルも続けてしゃがみ込み、縮こまった身を抱き寄せると、すぐにリリアナがぎゅっとしがみついてきた。
 それ以上の強さで抱き締め返し、ミルクティー色の髪をなでる。

「リリアナ。悲しませてしまって、本当にすまない」

 途端にリリアナが必死に首を振る。柔らかな髪が指に絡みついた。



 どれくらいそうしていただろうか。
 落ち着いてきたリリアナが、そっとファリエルの胸を押した。
 無言の合図に腕の力をゆるめる。

 リリアナの肩を支えて胸から起こしてあげた途端、待ち構えていたかのように顔のそばにガラス玉がふわふわと近づいてきた。その動きはずいぶんと弱々しい。

 中の炎は、色がわからないくらいに小さくなっている。
 リリアナは、うつむいたまま涙を拭っている。


 ああ、リリアナ。
 せめて君の名前だけでも憶えていられたら――。
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