傷ついた王子は森の魔女に癒される
「君に触れて欲しくないというわけではない。ただ、その……恥ずかしいというか……」

 とっさに嘘をつく。本当は、侍女に肌を見られることには慣れていて照れはない。
 召使いたちが身の回りの世話をしてくれるのは、これまでのファリエルの日常だった。

 苦しい言い訳に、リリアナが『そっか』と納得した様子を見せる。

「わかりました。はい、どうぞ」

 絞った布巾を笑顔で手渡された。
 ファリエルは温かく湿ったそれを受け取ると、シャツを脱ぎ、自分で身体を拭き始めた。
 筋肉がこわばっていて、拭く動きすら、きしむような感覚が走る。
 それどころか、薬で抑えられていた身体中の傷が一斉にうずき出した。

「くっ……」

 思わず声が洩れる。
 歯を食いしばり、痛みをこらえながら布巾を肌に滑らせる。
 するとリリアナが顔を覗き込んできた。

「痛み、ぶり返しちゃいましたか? やっぱり私がやりますね」
「すまない。お願いできるだろうか」
「はい! お任せください!」

 差し出された手に布巾を返す。リリアナは桶の前にしゃがみ込むと、改めて布巾を湯に浸した。
『このタイミングで痛みが出るってことは……』とつぶやきながら、ちゃぷちゃぷと音を立てる。
 薬について思い巡らせているのか、その顔は真剣そのものだった。

 ぎゅっと布巾を絞り、立ち上がる。中腰の姿勢でファリエルの肩のあたりを拭き始める。

 その直後。
 ぴたりと動きが止まった。
< 11 / 41 >

この作品をシェア

pagetop