傷ついた王子は森の魔女に癒される
「ファリエルさん、ファリエルさん……! 夢みたい……! 私、これからずっとずっと、あなたと一緒にいられるんですね……!」
「ああ。幸せになろう、ふたりで一緒に」
「はい……!」

 腕の中でうなずいたリリアナが、世界一愛らしい笑みを浮かべる。
 赤く染まった頬に、雫が伝っていく。
 濡れた頬を手のひらでそっと包み込めば、まぶたを下ろしていく。


 涙交じりの誓いのキスは、一度きりでは終えられなかった。


    ***


 次の日。
 朝日の差し込む室内は、まるで天国にでもいるかのように光り輝いて見えた。
 ベッドからゆっくりと起き上がる。途端にふわりといい匂いがした。

 台所を覗き込む。リリアナは料理をしていた。
 熱気が漂う中、コトコトと鍋の煮える音が聞こえてくる。

「おはよう、リリアナ」

 呼びかけた瞬間、リリアナが小さく飛び上がった。
 肩を竦めておずおずと振り向く。その顔は、熟れた果実のように真っ赤になっていた。

「お、おはよう、ございます……」

 小声でそう言って、ぎくしゃくと頭を下げる。
 ぎこちない様子を見ていたら照れが移ってしまい、頬が熱くなった。
 正直な気持ちを伝え合ったことを思い出すと、つい照れくさくなる。


 気まずいというほど気まずくもない、不思議な沈黙。
 頭に手をやる。するとまったく同時にリリアナも自分の髪をいじり出した。
 互いに気づいてぱっと手を下ろす。

 煮え立つ鍋が、ふしゅっと音を鳴らす。
 はっとしたリリアナが蓋を開けて中の様子を見る。杓子でひと混ぜして、再び蓋を閉める。

 ファリエルはその姿を見ただけで目の奥が熱くなった。新しい日常が始まった喜びが胸に込み上げてくる。
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