傷ついた王子は森の魔女に癒される
 何度も息を吸い込んで、落ち着きを取り戻す。
 しょんぼりしているリリアナに微笑んでみせる。

「だいぶすっきりしたよ。ありがとう、リリアナ」
「いえ……」

 まだ恥ずかしがっているのか、リリアナはうつむいたまま、ミルクティー色の髪をいじっていた。


    ***


「ん……?」

 ファリエルが目を開くと、すっかり日が落ちていた。
 身体を拭いてもらっただけなのに、いつの間にか眠ってしまったらしい。

 すうすうと、かすかな呼吸音が聞こえてくる。
 そちらに目を向けると、リリアナがベッド脇に置いた椅子に腰かけて眠っていた。
 すっかり寝入っているのか、少し首をかしげた姿勢で揺れている。

 無防備な寝顔を見つめる。
 ふと、身体を拭いてもらったときの、至近距離で見た表情が頭によみがえった。
 とくん、とくんと心臓が弾み出す。
 まさか僕が、女性に近寄られただけで動揺してしまうとは――。
 婚約者や令嬢たちから腕を絡められたときは、うっとうしさしか感じたことがなかった。


 音を立てないようにそっと起き上がる。眠るリリアナに小声で話しかける。

「君には迷惑を掛け通しだな。早く、回復しなくては……」

 つぶやいた途端、ふと心によぎる感情があった。


 この穏やかな時間を、もう少しだけ味わっていたい――。


 思ったそばから首を振って打ち消す。
 こんな腑抜けたことを思ってはいけない――僕は、王子なのだから。

 でも。
 僕は、処刑されたはずの身だ。


「僕を待ってくれている人なんて、この世にいるのだろうか……」
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