傷ついた王子は森の魔女に癒される
「そのじょうろの水には成長促進剤を加えてあります。それを掛けるとあっという間に育つんです。魔女はそうやって、今日食べる分だけ育てて収穫してます」
「なるほど。それはすごいな」
「今日は、キャベツの煮込み料理にしましょうか。こちらの芽に水を掛けておいてください」
「わかった」

 リリアナにうなずいてみせてから、指定された双葉の前に移動する。
 水やりをしようとした矢先、ふと城の庭園の光景が目に浮かんだ。
 亡き母との思い出がよみがえる。幼い頃、母に連れられて、水撒きされたばかりの庭園を散策した。輝く水滴のまぶしさ、優しい母の笑顔。

 ファリエルがぼんやりしていると、背後でリリアナが「あっ」と短い声を出した。

「ナイフ持ってくるの忘れちゃった! 取りに行ってきますね」
「あ、ああ。ではその間に水やりをしておこう」
「はい、お願いします!」

 リリアナが大きくうなずき、家の中に戻っていく。
 ひとりになったファリエルは、改めて小さな双葉を見下ろした。
 うーんと唸りながら首をひねる。

「ここから本当に、収穫できるまで育つのか……?」

 まるで想像がつかない。おそるおそる、水を掛けてみる。
 水を与えた芽を中心にして、魔法の光がきらきらと弾けた。

「綺麗なものだな……」

 リリアナの顔が頭に浮かぶ。
『きれいですよね!』と、魔法の光よりもまぶしい笑顔を勝手に妄想してしまう。

「…………あ」

 気づけば芽の周りが水浸しになっていた。

「しまった。掛けすぎたか?」
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