傷ついた王子は森の魔女に癒される
 聞くべきではないと自分の心を抑え込みたいのに、いつまでもそのことを考えてしまう。
 口にするかどうか思い悩むうちに、視界の端で影が揺れ出す。
 隣に振り向くと、リリアナが目を閉じ、ゆらゆらと前後に揺れていた。いつの間にか眠ってしまったらしい。

 すうすうと、小さな寝息が聞こえてくる。
 きっと思いも寄らないトラブルで疲れてしまったのだろう。

 失礼なことを口にしなくてよかったとしみじみ思いながら、小声で呼びかける。

「……おやすみ、リリアナ」

 眠るリリアナが、少し微笑んだ気がした。
 無防備な寝顔のかわいらしさに、つい頬がゆるんでしまう。

 少しでも眠りやすいようにと、リリアナの肩に手を回し、慎重に引き寄せてみる。
 肩に寄りかからせた瞬間、ふわりとハーブの良い香りがしてきた。


 心臓が、どくんと跳ねる。


 ――なぜ僕は、こんなに緊張しているんだ?


 意識しないようにすればするほど身体がこわばっていく。
 肩に感じる重みと体温に、さらに脈が速くなる。

(寄りかからせたのは失敗だったか? いや、リリアナを安眠させるためだ、間違ってはいない……はず)

 深呼吸してみても、激しくなった鼓動はなかなか収まらない。
 ファリエルは、リリアナがすやすやと眠る横で、緊張したまま一夜を過ごす羽目になったのだった。
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