傷ついた王子は森の魔女に癒される
 リリアナは、顔を洗ったあと、台所で朝食を作り始めた。
 魔法を掛けた保存容器からキャベツを取り出して、ざくざくと切っていく。

(寝ているときに、誰かがそばにいてくれたのって本当に久しぶりだな。コーデリアさんは、今は会えなくなっちゃったし……)

 魔女は長寿だから、もしも人間と暮らすことを選んだら、必ず自分が看取る(・・・)ことになる。
『別れの苦しみを受け止められないならば、孤独に生きるべし』と魔女の間では言い伝えられている。
 だからこそ、魔女はひとりで生きる選択をする人がほとんどだ。

 でも、誰かがそばにいてくれるのって、安心する。
 コーデリアさんが来てくれたときはいつも本当に嬉しかったし、今だって――。


    ***


 家から飛び出したファリエルは、落ちていた大ぶりの木の枝を拾った。
 ひゅっと音を立てて、力いっぱい振り始める。
 これまで剣の鍛錬は、欠かさずおこなっていた。王子らしく勤勉であろうとするだけで、異母兄に眉をひそめられていたことが頭に浮かぶ。

 思い出したくない顔を思い出してしまい、剣代わりの枝で空中を切り裂く。
 何度もそれを繰り返すうちに、無心になれたかと思ったのに――またリリアナのことを思い出してしまった。


 寄りかかって来たときに香った、ほんのり甘いハーブの匂い。
 真っ赤になった照れ顔。
 薬を調合しているときの、真剣なまなざし。
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