傷ついた王子は森の魔女に癒される
 とくんとくんと心臓が騒ぎ出す。
 王子として過ごしていたときは、ひとりの女性のことばかり考えてしまうなんて一度もなかった。


 女遊びが激しかった異母兄は、もしかしたら女性への欲求がコントロールできなかったのかもしれない。以前は心の底から呆れていたが、今なら少しだけ、わかる気がする。

 剣に見立てた枝を何度振っても、雑念は振り払えない。

「一体どうしてしまったんだ僕は……!」

 もう一度、全力で枝を振り下ろした、その瞬間。


 ぱきっ、と。


 枝を踏む音(・・・・・)が聞こえてきた。
 自分の足元からではない。遠くで鳴った音。


 今のは明らかに人間か、生き物の出す音だ。


 ――まさか追っ手が来たのか?
 でもなぜ僕がここにいるとわかった?


 魔女の森へは、魔女からの許可がなければ入れないはずだ。
 リリアナは、誰かを招いたとか、そんなことはひとことも言っていなかった。


 僕の関係者だとしたら、絶対にリリアナを巻き込むわけにはいかない。
 武器は、手に持っている枝だけ。
 素早く辺りを見回す。落ち葉や木の実、朽ちた木の皮や倒木の破片くらいしか見当たらない。
 ただ、その場にあるもので戦う技術は身に付けてある。


 誰が来ようとも、必ず撃退してみせる。リリアナは僕が守る。


 ファリエルは息を詰め、身を低くして木の枝を構えると、音が聞こえてきた方向を睨みつけた――。
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