傷ついた王子は森の魔女に癒される

10 魔女の家への来訪者(前編)

 剣代わりの枝を構えたファリエルは、木々の隙間に人影を見つけた。
 特に身を隠す様子もなく、のんびりと歩いてくる。

 よく見ると相手は長身の男だった。巨大なリュックサックを背負っている。
 森の木々の間を縫うように歩き、幹の後ろから姿が現れたり隠れたりしている。

 こちらに気づいているのかいないのか。目を凝らしても、まだその表情はうかがえない。
 敵意がないかどうかをまず知りたい。
 息を詰めて、相手の反応を待つ。

 一定のペースで聞こえてきていた足音が止まる。

 男の姿が、ふっと消え失せた。


「――!?」


 次の瞬間。
 いきなり真後ろに人の気配を感じたファリエルは素早く振り返ると、枝を横倒しにして構えた。
 いつの間にか背後に移動していた男にナイフで斬りつけられる。


 重い――!


 手がしびれる。勢いを受け止めきれずに枝を取り落としてしまった。
 バランスの崩れた体勢を立て直しながら、襲いかかって来た男を見上げる。
 その顔に見覚えはない。雇われの暗殺者かもしれない。

 相手を見据えたまま素早くしゃがみ込んで土を握りしめ、ナイフを振りかざしている相手に投げつける。
 男はまとっていたローブでファリエルの攻撃を避けると、後方に大きく跳躍した。


 互いに睨み合う。男は中年と青年の間くらいの年齢のように見える。
 風が吹き抜けていく。木の葉のざわめきの中で睨み合う。
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