傷ついた王子は森の魔女に癒される
 男は素早く距離を詰めてきたにもかかわらず、息の乱れはなかった。
 対してファリエルは、しばらく身体を動かしていなかったせいか既に息が上がっていた。


 このままではまずい。どうにかして追い払わなくては。
 呼吸を繰り返して冷静さを保ちながら、思考を巡らせる。

 なにか武器にできるものはないか――視線は相手をとらえたまま、使えそうなものを探す。
 さっき取り落とした枝を見つけた。折れてはいないようだった。
 まずはあれを拾って、反撃を繰り出して――。


 頭の中で動きを組み立てた、その瞬間。


 リリアナが家から飛び出してきた。


 予想外の出来事に、ファリエルは顔を正面に向けたまま叫んだ。

「リリアナ! 出てきちゃダメだ!」

 ファリエルの制止も聞かず、リリアナはファリエルの前に立ちふさがった。両腕を大きく広げる。
 相手はナイフを持っているのに、そんな無防備な姿を晒してはまずい。


 リリアナを傷つけさせるものか――!


 ファリエルがリリアナのさらに前へと踊り出ようとした矢先。
 リリアナが声を張りあげた。

「待ってくださいジャーヴィスさん! この人は怪しい人じゃないです!」
「……え?」

 完全に予想外の言葉に、リリアナの隣で足を止めたファリエルは、思わず間抜けな声を出してしまった。
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