傷ついた王子は森の魔女に癒される

11 魔女の家への来訪者(後編)

 僕が王子だと気づかれたかもしれない――ファリエルが警戒感を抱いた途端。
 ジャーヴィスが「よろしく」と歯を見せて笑った。

 気さくな今の反応は、『これ以上追及しない』という意思表示だろう。でも違和感を覚えられたことは確かだ。
 身に沁みついた振る舞いが出てしまったが、今後はうかつに出さないように気を付けなければ――。


 ファリエルが反省する目の前で、商品のやり取りが始まった。
 ジャーヴィスが、分厚いメモ帳にペンを走らせながらリリアナに尋ねた。

「ところで、こちらの御仁(・・・・・・)はたまたま今日ここに来たってわけじゃないんだよな?」
「あ、はい。実は……精霊召喚をしようとしたら、どこか間違ってたみたいで、ファリエルさんを召喚しちゃったんです」
「召喚? 人間を?」
「はい……。ジャーヴィスさんは、そういう話って聞いたことありますか?」
「いや、ないな」
「ですよね。私も記録を調べてるんですけど、全然見当たらなくて」
「ふーん……」

 男が顎に手を当てて、ファリエルをまじまじと見つめた。

「ところで君、本当に人間なんだよな?」
「ん? ああ、もちろん」

 人間以外の何者かになった覚えはない。確かに僕は生きている。
 でも本当に僕は、死なずに済んだのだろうか――?

 ファリエルが思い悩む一方で、行商人もまた、なにかを考える顔つきをする。

「不思議なこともあるもんだなあ。五百年生きてきて初めてだ、魔女が人間を召喚できたなんて話」
「五百年!? 貴方は一体……?」

 改めて男を見る。どこからどう見ても自分と同じ、普通の人間だった。
 ファリエルが唖然としていると、男がふと遠い目をした。
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