傷ついた王子は森の魔女に癒される
 ファリエルはそっと起き上がると、足音を立てずにチェストの前まで移動した。
 その上に置かれていたひざ掛けを広げて、リリアナの肩に掛ける。

 リリアナは顔を伏せて眠っていた。近くに立っていても起きる気配はない。
 ミルクティー色の髪の流れを視線でたどる。
 寝顔を見られないことを、少し残念に思った。


 ベッドまで戻り、腰を下ろす。
 その拍子にふと思い出したことがあった。
 手元を見下ろし、手首をさする。

「そういえば……」

 ――あれ(・・)は、どこへ行ってしまったのだろう。ずっと外さずにいたのに。


 幼い魔女の、小さな贈り物。
 本当に、彼女はリリアナに似ていただろうか。

 思い出そうとするだけで、心臓が締めつけられる。
 持ち帰った魔女の秘薬に加えて、着けたままだった魔女のあれ(・・)が決定打となり、裁判も経ずに処刑が確定した。

 でも、あの幼い魔女のせいで処刑されただなんて思いたくない。
 当時は毎日のように婚約者に泣かれて、心が疲れ果てていた。


 魔女からもらった大切な贈り物。
 城に戻る前に、外せなかった。外したくなかった。
 なぜなら。


 陰鬱な日々を送る中でも、魔女の魔法が、僕の心を守ってくれると思ったから――。


    ***


 行商人ジャーヴィスは、リリアナの家を出発してから一週間後、とある魔女の家に到着した。
 ドアをノックしたところで返事があるわけがない。
 無断で室内に踏み込み、巨大なリュックサックを床に下ろす。

 ベッドには、少女の姿をした魔女が小さく丸まった姿勢で横たわっていた。虹色の魔法の光に包まれている。
 魔力の流れに沿って、少し浮き上がった黒髪がゆらゆらと揺れている。
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