傷ついた王子は森の魔女に癒される
「おーい、コーデリア。起きろ」

 呼びかけても、ぴくりともしない。自分に強力な魔法をかけて、深い眠りに就いているからだ。
 睡眠状態を維持するために膨大な魔力を消費しているからだろうか、かつての妖艶さは消え失せ、すっかり若返っている。

 ジャーヴィスは、足音を立てないように注意しながらベッドに近づいた。
 虹色の膜の向こうで眠る少女をしみじみと眺める。

「魔女って不思議な生き物だよな。こんなに容姿が変わっちまうなんてな。ま、俺はどっちのあんたでもいいと思うけど」

 聞いていないと思って好き勝手にひとりごとを言っていたら、いきなりコーデリアが寝返りを打った。

「ぶつぶつうるさいわね……。私のことは放っておいてって言ったでしょ?」

 この姿になってから初めて聞いた声は、完全に少女の声だった。
 調子狂うな……と思いながら、ジャーヴィスは本題に入った。

「いいから聞けって。すげえもん見ちまったんだ」
「なに? くだらない話だったら引き裂くわよ」

 仰向けになったコーデリアが、まだ開き切っていない目でジャーヴィスを睨みつける。
 赤い瞳は眠たげなのに鋭く、ジャーヴィスは一瞬ひるんでしまった。
 すぐに気を取り直して、会話を続ける。

「聞きたくもない名前だろうけど、伝えとく。……ボナマハト王国の第二王子、生きてるぞ――……うっ!」

 腕で顔をかばいながら一歩後ずさる。凄まじい魔力が放たれたからだ。
 足を踏ん張って、どうにかその場にとどまる。
 今のコーデリアに『落ち着け』と言っても無駄だろう。
 魔力放出の圧を耐えながら、腕の隙間から様子をうかがう。

 コーデリアが、禍々しい魔法の光の中で、ゆっくりと起き上がる。
 見開かれた目が血走っている。


「生きてるってなに!? なんでよ! 許せない、許せない、絶対に許せない……!」


 金切り声が、部屋の空気を震わせる。
 膨大な魔力の流れに、黒髪が逆立っていた――。
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