傷ついた王子は森の魔女に癒される

16 魔女と見知らぬ街へ(後編)

 密かに緊張しながら、街へと足を踏み入れる。
 新参者が珍しくない場所なのか、誰一人として振り向きもしない。
 その反応にほっとして、わずかに警戒心を解く。

 今は長くなっている髪の陰から視線を巡らせる。
 馬車が一台通れる程度の大通りが、ずっと先まで伸びている。
 左右に並ぶ店はところどころが閉店していて、かつては賑わっていたことが窺える。
 髪を払って改めて見回す。街並みに、まったく見覚えはなかった。

 でも――。

 店の看板のデザインだとか。
 石畳の模様だとか。
 露店で扱っている商品だとか。


『ボナマハト王国の文化とは違う』と、そう断言できるのに。


 どことなく、自国の文化を思い起こさせられる。
 そんな気がした。


(僕が意識しすぎてしまっているからだろうか)

 冷静な判断が下せているか自信がなくなってくる。
 でも行き交う人々のそばで、国名を出してリリアナに確認するわけにはいかない。
 どこに追っ手が潜んでいるかわからないからだ。


 街の人同士の、店先のやり取りを盗み見る。
 すると、見たことのない硬貨が使われているのが見えた。

 通貨は大陸共通だから、ここがボナマハト王国と陸続きのどこかであれば、当然同じものが使われているはずだ。
 でも、海を隔てた先の国の硬貨とも違うと断言できる。
 随分と遠くに来てしまっているようだ。


 もし本当にそうだとしたら。
 なぜ僕の身に、そんな不可解な現象が起きたのだろう?
< 56 / 117 >

この作品をシェア

pagetop