傷ついた王子は森の魔女に癒される
 早く用事を済ませて帰らなければ。
 そう思いながら前を見据える。
 すると道の少し先に、鍛冶屋の看板を見つけた。

 隣に振り向いて、明るい声で呼びかける。

「リオルド様。あちらに入りましょう!」
「……あ、ああ。行こう、ファラ」

 従者と主人らしいやり取りをして、自分たちの演じる役を改めて確認する。
 視線を合わせて小さくうなずき合う。

 ファリエルは、リリアナと一緒に鍛冶屋へと足を踏み入れた。



 店内は、壁一面に様々な種類の武器が展示されていた。
 ざっと見ただけでも品質の高さが窺える。
 何店舗も巡らずに済みそうだ。ほっと胸を撫で下ろす。

 辺りには金属や革の匂いだけでなく、汗やほこりの匂いも混じっていた。
 騎士団の鍛錬直後の光景が浮かんでくる。

 隣に立つリリアナが、少し困った顔をして唇を引き締める。
 きっと、かぎ慣れない匂いに驚いたのだろう。


 手短に用事を済ませよう。
 そう思ったファリエルが店主に声を掛けようとした瞬間。


 中年の男性店主が、先にファリエルを見つめてきていることに気が付いた。
 武器を磨く手を完全に止めて、目を見開いている。

 続けて頭の先から爪先まで、視線で何往復もされた。

「……!」

 息を呑む。
 まさか、指名手配でもされていたのか?
 でも、それらしき張り紙はどこにも見当たらなかったのに――!
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