傷ついた王子は森の魔女に癒される
 それで彼女の心が安定するならば――。
 詫びのような気持ちがあったのかもしれない。
 周りが決めた婚約であっても、彼女は恋人のような関係になりたがっていた。
 でもファリエルにとって、魅力を感じる点はひとつもなかった。
 そして、心にもない『愛している』という言葉を口にできるほど、器用でもなかった。


 無事に魔女の森から戻り、薬を手渡したときの彼女の様子は異様だった。
 小瓶を握りしめた手を震わせて、目を爛々とさせて。
 思えばあれは、自分の思い通りになった喜びを爆発させないようにしていたのだろう。


 次の朝。慌てた様子の執事に起こされた。
『ファリエル殿下が魔女と通じ、国の乗っ取りを画策している』と噂が広がっているという。
 直後、異母兄グンナールが兵を率いて部屋になだれ込んできた。その顔は、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
 その後ろには婚約者が立っていた。扇子で口元を隠し、三日月形に目を細めて。


 兄に疎まれていたのは分かっていたのに。
「ファリエル殿下こそ、次期国王にふさわしい」
「兄殿下がファリエル殿下より優れている点はひとつもない」――。
 日々そんな声が聞こえてくる中で、兄が憎悪を募らせているのは感じていた。
 でも婚約者と共謀していたと気づけなかったのは、自分の落ち度だ。

『必ず無実を証明してみせます』
 兵の手を振りほどき、自ら牢屋に向かってみせた。


 そのときはまだ、暗い地下牢で、自分がどんな目に遭うかを全く想像できていなかった――。
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