傷ついた王子は森の魔女に癒される
「ううっ……!」

 素早く起き上がり、迫る人影を押しのける。その瞬間。

「――きゃっ!」

 高い悲鳴が聞こえてきた。牢屋では聞こえてくるはずのない女性の声。
 目を開くと、リリアナが尻もちをついていた。アクアブルーの目を丸くして、ファリエルを見つめている。
 夢の名残か、心臓が早鐘を打っている。ファリエルは乱れた呼吸を繰り返しながら、小さく頭を下げた。
 
「失礼なことをしてしまって本当にすまない……」
「気にしないでください。床の上で寝てたから、怖い夢を見ちゃったのかもしれませんね」

 リリアナはその場に正座しなおすと、申し訳なさそうに微笑んだ。

「立ち上がれそうですか? もしよかったら、ベッドをお使いください」
「ありがとう」

 その場に立つだけで、身体の重さを感じる。
 同じ部屋にあったベッドに案内されて、すがるように座り込む。
 すると、ふわりとハーブの香りがした。

「これは……君のベッドか?」

 途端にリリアナが、ぎゅっとローブを握りしめて気まずそうな顔をした。

「あ、魔女が使ってるものだと気色悪いですよね、あはは……」
「まさか! 誤解を招く言い方をしてすまない。君の寝床を占有してしまうことが申し訳なくて」
「お構いなく! 私はまだ当分寝ませんので、ずっと使ってもらっちゃって大丈夫です!」

 促されて、布団に潜り込む。悪夢で飛び起きたとはいえ、まだ眠気はあった。
 柔らかな感触に包まれるだけで、意識が遠のいていく。

「おやすみなさい、ファリエルさん」
「ああ、――」

 ありがとう、おやすみ、と――言い終えないうちに、ファリエルは眠りに落ちていった。
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