傷ついた王子は森の魔女に癒される
 そこに蹴り出されたときの痛みと屈辱。
 首を落とされる瞬間の、死を覚悟した記憶。
 思い出したくもない光景が浮かびかけた矢先、耳鳴りがした。


 足元がふらつく。
 動揺をリリアナに悟られたくない。でも身体が言うことを聞かない。


 ファリエルがその場にくずおれないよう必死にこらえていると、リリアナが処刑台に向かって駆け出した。
 崩れかかった処刑台に両手を置く。

「これって……」
「……!? どうした?」

 不可解なリリアナの行動に胸騒ぎがする。
 歩み寄りたくても足が動かない。

 風が吹き抜ける。砂埃が喉に絡む。
 ファリエルが声すら出せなくなっていると、リリアナが泣きそうな声でつぶやいた。


「ここに、私の魔力が漂ってる……どうして?」


 子供が泣き出す直前のような、か細い声。
 全身を小刻みに揺らして、浅い呼吸を繰り返す。
 ゆるく首を振り、また処刑台の上を怯えたような手つきでなぞる。
 しかしすぐに手を止めて、深くうなだれた。


 リリアナの魔力が、処刑台に残っていた――。
 受け入れがたい事実が闇の渦となり、心が飲み込まれていく。
 固く目を閉じれば、いくつもの出来事が繋がっていく。


 僕がずっと、当時のリリアナにもらったお守りを着けたままでいたから。
 きっと処刑される瞬間、魔女のお守りが僕を守ってくれたんだ――。


 もう、隠しようがない。
 ファリエルは顔を上げると、立ち尽くすリリアナをまっすぐに見た。
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