傷ついた王子は森の魔女に癒される

20 忘れられない人(前編)

 空中で静止したほうきに立つ少女が金切り声で叫ぶ。

「あんた、今すぐリリアナから離れなさい!」

 彼女は僕を『あいつ(・・・)の弟』と呼んでいた。
 つまり――。

「君はグンナールを知っているのか!?」
「その名を私の前で口にするな!」


 鞭を振るうような動きで魔法の光を放ってくる。
 ファリエルはとっさに立ち上がり剣を抜くと、目の前に来た光の弾を叩き斬った。
 ふたつに分かれた弾が背後で炸裂する。爆風が頬をかすめていった。


 剣を構え直して相手を見上げる。
 ――見下ろせる位置に立つ彼女の方が圧倒的に有利だ。
 それでもリリアナをなんとしても守らなければ。

 顔を引きつらせた少女が再び光の弾を放ってくる。今度は細かい球体がいくつも飛んできて、ファリエルは矢を落とす要領で魔法を弾き返した。

 魔法の衝撃を必死にやり過ごす中、背後からリリアナの小声が聞こえてきた。

「コーデリアさんは、ボナマハト王国の第一王子と恋仲だったんです……」

 コーデリアというのは、目の前で怒り狂っている魔女のことだろう。
 ファリエルは懸命に剣を振るいながら、少女を見上げてつぶやいた。

「君は……僕の兄に、利用されてしまったのだな……」


 異母兄グンナールはそういう人だった。
 自分が王になるためならなんだってする。自分の手は汚すことなく。

 あの男は、僕の婚約者と手を組んで僕を陥れるだけじゃなく。
 魔女までをも騙したというのか――。
< 72 / 117 >

この作品をシェア

pagetop