傷ついた王子は森の魔女に癒される
 リリアナが今からなにを言おうとしているか、気づいてしまった。


 ああどうか、その続きは口にしないでくれ――!


 振り向いたリリアナが、ほんの少しだけ目を細めた。
 肩で息をしている。唇が震えている。


「……ですから、もう……出ていってください」


 目の前が真っ暗になった。
 今まさに。とうとう――僕は処刑されて(・・・・・)しまった(・・・・)――!


 でも、それでも。
 落ち込んでいる顔を見せるわけにはいかない。
 リリアナに罪悪感を抱いて欲しくないから。

 ファリエルはもう一度、全身で息をした。
 無理やり動揺を抑え込み、こちらを見ていない恩人に敬礼する。

「これまで本当に……世話になった。ありがとう、僕を……救ってくれて」

 みっともなく声が震える。
 リリアナはなにも言わなかった。
 深くうつむき、ミルクティー色の髪で顔を隠している。


「……さようなら、リリアナ」


 背を向けて、歩き出す。
 その瞬間、目の奥が熱くなった。
 息を詰めて涙をこらえながら、魔女の家をあとにした。


    ***


 リリアナは、ずっと無言で立ち尽くしていた。
 床を踏む、耳慣れた足音。
 ゆっくりと扉が開く音。そっと閉じられる音。

 枯葉を踏む音が、少しずつ遠ざかっていく。


 完全に音が消えた瞬間。
 リリアナは無我夢中で駆け出した。
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