傷ついた王子は森の魔女に癒される
 ファリエルはコーデリアの目の前に歩み寄ると、片膝を突き、敬礼の姿勢を取った。少女の姿をした恩人を見上げて、心からの御礼を口にする。

「回復薬、本当にありがとう。すっかりよくなった」
「当然でしょう。私が作った薬ですもの。一日で目覚めたのは想定外だったけれど」
「一日? 僕は丸一日眠っていたのか? 同じ夕方だと思ったのだが……」

 夕焼けに染まった窓の外を見る。その途端、長時間眠ったときに似たこわばりを感じた。

「本当は何日かは寝込む計算だったのに。あんた案外、身体は丈夫なのね。殺しがいがありそうだわ」

 コーデリアが、ふんと鼻を鳴らす。顔は背けられたままだ。
 ファリエルはその場に立ち上がり背筋を正すと、赤い瞳をまっすぐに見た。

「……貴女にお願いがある」
「なによ」
「約束通り、記憶を消す薬は必ず飲む。だがその前に……リリアナの元へ、これまでの御礼を伝えに行かせてはもらえないだろうか」

 コーデリアは視線を逸らし続けている。無表情から変化せず心境が読めない。
 もしかしたら即座に拒絶されるかもしれないと思っていたが、迷う程度には優しさが残っているのだろうか?

 静寂が続く。互いの呼吸音だけが、わずかに空気を揺らす。
 ファリエルが緊張感に息を詰めていると、コーデリアがため息をついた。

「そんな約束、信用できるとでも思っているの?」
「……」
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