キスしない約束の恋

第12話 ふたりきりの外

「買い出し、二人で行ってきてくれる?」

 

 文化祭準備中。

 

 クラスメイトにそう言われた瞬間。

 

「……え」

 

 固まる。

 

 

「神崎くんとシロ、ちょうどいいし!」

 

 

 断れない空気。

 

 

 ちらっと横を見ると。

 

 

「行くぞ」

 

 

 もう決まっていた。

 

 

「……はい」

 

 

 小さく頷くしかない。

 

 

 

 ――校門を出る。

 

 

 並んで歩く。

 

 

 ふたりきり。

 

 

 

「……」

 

 

 気まずい。

 

 

 何を話せばいいかわからない。

 

 

 

「そんな緊張すんなよ」

 

 

 隣から声。

 

 

 

「……してません」

 

 

 

「してるだろ」

 

 

 

 少しだけ笑う。

 

 

 

「顔、固い」

 

 

 

「……」

 

 

 

 何も言えない。

 

 

 

 

「ほら」

 

 

 

 ふっと、歩幅を合わせられる。

 

 

 

「こっち」

 

 

 

 自然に道を選ぶ。

 

 

 

 

「……慣れてますね」

 

 

 

 思わず出た言葉。

 

 

 

「何が」

 

 

 

「こういうの」

 

 

 

 一瞬、間があく。

 

 

 

「……まあな」

 

 

 

 否定しない。

 

 

 

 その一言で。

 

 

 

 胸が、少しだけ痛む。

 

 

 

 

「でも」

 

 

 

 続ける。

 

 

 

「今は違う」

 

 

 

「……え」

 

 

 

「お前だから」

 

 

 

 

 さらっと言う。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 心臓が、跳ねる。

 

 

 

 

「……意味がわかりません」

 

 

 

「いい」

 

 

 

 それ以上は言わない。

 

 

 

 

 店に入る。

 

 

 材料を選ぶ。

 

 

 

「これでいいか?」

 

 

 

「……はい」

 

 

 

「じゃあ持て」

 

 

 

「え」

 

 

 

「軽い方な」

 

 

 

 袋を渡される。

 

 

 

 さりげない気遣い。

 

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

「だから敬語やめろ」

 

 

 

「……」

 

 

 

 また、少し笑う。

 

 

 

 

 店を出る。

 

 

 

 夕方の空。

 

 

 

 少しだけ、オレンジ色。

 

 

 

 

「……綺麗」

 

 

 

 思わず呟く。

 

 

 

 

「だな」

 

 

 

 隣で、同じ方向を見る。

 

 

 

 

 その距離が。

 

 

 

 前より、近い。

 

 

 

 

「シロ」

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

「今日、楽しい?」

 

 

 

 

 突然の質問。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 考える。

 

 

 

 

 楽しいか。

 

 

 

 

 わからない。

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

「……嫌じゃないです」

 

 

 

 

 本音だった。

 

 

 

 

「そっか」

 

 

 

 

 それだけで。

 

 

 

 

 少しだけ、嬉しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 ――この時間が。

 

 

 

 

 ずっと続けばいいのに。

 

 

 

 

 

 そう思ってしまったことに。

 

 

 

 

 気づかないふりをした。
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