キスしない約束の恋

第14話 逃げないで

 ――やっぱり、無理。

 

 教室にいるのが、苦しい。

 

 視線も。

 噂も。

 神崎くんも。

 

 

 全部、近すぎて。

 

 

「……帰ろ」

 

 

 授業が終わる前に、そっと席を立つ。

 

 

 廊下に出る。

 

 

 少しだけ、息が楽になる。

 

 

 でも。

 

 

「シロ」

 

 

 呼ばれる。

 

 

 足が止まる。

 

 

 

「……なんで逃げる」

 

 

 振り向くと。

 

 

 神崎くん。

 

 

 

「逃げてません」

 

 

 

「逃げてる」

 

 

 

 一歩、近づかれる。

 

 

 

「話せ」

 

 

 

「……嫌です」

 

 

 

 はっきり言う。

 

 

 

「なんで」

 

 

 

「……」

 

 

 

 言えない。

 

 

 

 言ったら。

 

 

 

 全部、壊れそうで。

 

 

 

 

「……怖いからです」

 

 

 

 でも、口が動く。

 

 

 

「何が」

 

 

 

「……全部」

 

 

 

 視線を逸らす。

 

 

 

「神崎くんも」

 

 

 

「……」

 

 

 

「優しいこと言うのに」

 

 

 

「違うところもあって」

 

 

 

「どっちが本当かわからなくて」

 

 

 

 

 苦しい。

 

 

 

「……信じられない」

 

 

 

 

 その言葉に。

 

 

 

 空気が、止まる。

 

 

 

 

「……ああ」

 

 

 

 静かな声。

 

 

 

 

「そりゃそうだな」

 

 

 

 

 否定しない。

 

 

 

 

「俺が悪い」

 

 

 

 

 はっきり言う。

 

 

 

 

 

「でもさ」

 

 

 

 

 一歩、近づく。

 

 

 

 

「逃げんな」

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 

「ちゃんと見ろ」

 

 

 

 

 まっすぐな目。

 

 

 

 

「今の俺」

 

 

 

 

 

 その言葉に。

 

 

 

 

 顔を上げる。

 

 

 

 

 

「変わろうとしてる」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「お前のせいで」

 

 

 

 

 

 心臓が、強く鳴る。

 

 

 

 

 

「……迷惑です」

 

 

 

 

 思わず、言ってしまう。

 

 

 

 

 

「私のせいにしないでください」

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 

「勝手に変わってるだけじゃないですか」

 

 

 

 

 

 言いすぎた。

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 止まらない。

 

 

 

 

「……そうだな」

 

 

 

 

 低く、答える。

 

 

 

 

「勝手だよ」

 

 

 

 

「でも」

 

 

 

 

 一瞬、間があって。

 

 

 

 

「それでもいいって思ってる」

 

 

 

 

 

 真っ直ぐな声。

 

 

 

 

 

「お前がいいから」

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 

 言葉が、出ない。

 

 

 

 

 

「だから」

 

 

 

 

 

「ちゃんと見ろよ」

 

 

 

 

 

「逃げんな」

 

 

 

 

 

 その言葉が。

 

 

 

 

 胸に刺さる。

 

 

 

 

 

 ――逃げたくない。

 

 

 

 

 

 そう思ってしまった。
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