かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
外堀だけが埋まってく
私、侯爵の孫だそうです
十八歳のマルーシャには、まるで男っ気がない。
幼い頃から二人暮らししてきた父に家事能力が一切なく、恋愛どころじゃないからだ。
時計職人の父が営むこじんまりした工房があるのは、ベルドニッツという小さな都市。
石造りの町は人々の活気であふれている。今日も市場には秋の豊かな実りが山積みになっていた。
この日、町の中心からは少し外れた通りにあるマルーシャの時計工房に来客があった。
「ごめーんくださぁーい!」
小さな女の子のかわいらしい声。工房の奥にある台所で、マルーシャは父と顔を見合わせる。
すると今度はノッカーが鳴り、落ち着いた男性の声もした。
「ごめん下さい、ご在宅でしょうか?」
これはお客さまかもしれない。マルーシャは慌てて椅子を立った。
「新しい時計の引き渡しは明日だったよね、お父さん」
昼近くに起きてきた父、クリフトは口をモゴモゴさせながらうなずく。今は台所で遅い朝食をとっているところだった。ゆうべ夜中まで何やら夢中で作業をしていたらしい。
「あー、ええっと日にちをお間違えかな? でも品物は仕上げてあるから平気だよ」
「お父さんじゃなし、納品日を間違えたりしないでしょ」
ご新規さまの注文だといいな。期待しながらマルーシャは工房に出ていった。この時計工房のふところ具合はいつも綱わたりなのだ。
「はーい!」
戸を開けると、立っていたのは背の高い男性と五歳ぐらいの女の子だった。親子だろうか。
「こちらは時計職人のアヴェリン氏の工房で間違いありませんか?」
「はい!」
マルーシャは勢いよくうなずいた。
父のフルネームはクリフト・アヴェリン。その工房を訪ねてきたのなら、新しい依頼かもしれない。
「――お母さま?」
低いところから声がした。男性が連れている女の子の発言だ。
その子が目をまるくして見つめているのはマルーシャの顔。タタタと進み出ると、嬉しそうにマルーシャのスカートにしがみつく。布地に顔をうずめて言われた。
「お母さま!」