かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「え? え、あの」

 わけがわからずマルーシャはおろおろした。男性の方に視線を向け助けを求める。

 その人は仕立ての良い上着を着ていた。上品なグレーで生地の質もいい。
 やや伸びた黒髪に、瞳も深い黒。ととのった生真面目な顔つきで、なかなか風采が良かった。ただの客なら支払いをはずんでくれそうなものだが――「お母さま」とはどういうことだろう。

「やめなさいミュシカ。初めての人に失礼だよ」
「だって、お母さまだもん」

 男性にたしなめられ顔を上げた女の子――ミュシカはとても愛らしかった。
 色白で、ふくふくした頬は薔薇色だ。やや舌たらずにしゃべる唇がつんとしている。マルーシャを見る瞳は青く澄んで、白っぽい金髪とよく似合っていた。

 そんなミュシカに抱きつかれるマルーシャ。目をやって眉をひそめたのは、台所から出てきたクリフトだった。

「おまえ、いつの間に娘なんか」
「産んでないわよ!」

 クリフトのつぶやきにマルーシャは怒鳴り返した。
 もう十八歳のマルーシャなので、子どもがいてもおかしくない。でもさすがにこの女の子は育ちすぎていた。
 だいたいマルーシャは母が亡くなって以来、父の世話にかかりきりで嫁に行く暇もないのに。とんだ言いがかりだ。

 マルーシャはそっと身をかがめ、ミュシカに話しかけた。

「ミュシカ、というの?」

 見上げてくるミュシカが目をぱちくりする。

(あああ、可愛いっ!)

 マルーシャが笑顔になると、ミュシカも嬉しそうにした。

「わたしミュシカ! お父さまはダニール!」
「そう。私はマルーシャよ。ミュシカのお母さまは……違う人じゃないかしら」
「でも、にてるのよぅ」
「お母さまに、私が?」

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