かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 だがメレルスはリージヤがシラをきっていると思ったのだろう。満足げに笑い、室内を歩き出す。ぐるぐると浮かれるその足取りが気味悪かった。メレルスはねっとりとしゃべる。

「いいのです、もう隠さなくても。あなた方がザラエにいると知ったのでしょうかねえ。追って来たのなら何故、妻や娘を伴うんでしょう。遊びがてらとは――私をなめてもらっては困る!」

 突然叫ばれた。怒りに燃える目。それでルスランは悟った。

 この男は冬告げ姫が目的なのではない。
 ただ、ダニールを憎んでいるのだ。
 怒りと憎しみと嫌悪で、常軌を逸してしまうほどに。

 過去に何があったのか。わからないながら、ルスランは今を乗りきるしかなかった。平静をよそおう。

「……兄が、妻と娘を連れてザラエに現れたと?」
「そのようだな。仲の良いご家族で、などと宿の者が言っておったとか。ふん、いい気なものだ」

 イグナートを尾けたメレルスは、あらためて宿に人をやったのだ。直接自分が確認に乗り込むのは危険だ。

『以前お世話になった方がこちらにお泊まりのようなのですが、ファロニアからの旅行客はいらっしゃいませんか?』

 尋ねて金を握らせれば、宿の者がペラペラと教えてくれた。ダニール・ジートキフと妻子、そしてご友人のクレヴァ夫妻が滞在中だ、と。

 その報告を受けてメレルスは妻と娘(・・・)を狙うことにした。
 人質にしてダニールに何かを要求するか、または――ただ殺してしまってもいい。できるならダニールの目の前で。
 ダニールにできる限りの屈辱、苦しみを与えるために家族を使う。その想像だけで愉しくて仕方がない。

「兄は、結婚などしていない」
「もうそういうのはいい!」

 一応告げてみたルスランをメレルスは怒鳴りつけた。
 リージヤに対しては嫌味なほどの丁寧さを崩さないが、ダニールの話になると憎悪をあらわにする。その不安定さがルスランに恐怖を与えた。刺激してはまずいかもしれない。

「隠すということは何か重要な女だということだな。それならばなおのこと、奪い去ってやれば奴がどんな顔をするか。見せてもらおう!」

 大げさな口ぶりで言い捨てると、メレルスは足音荒く出ていった。

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