温厚柔和な若旦那さまは、愛のためなら喧嘩上等!
「……わたくしは、嫌です」
表情を硬くして伊都子は拒否した。徹の思う壺だ。
「そうですか……まあダンスをちゃんと踊るなら、女性にも洋装していただきたいところですし。伊都子さんはお嫌いでしたよね」
「洋装? そんなもの私は好きませんことよ!」
伊都子は鼻息荒く断りを入れる。徹は内心ほくそ笑んだ。
――鹿鳴館という洋館が造られたのは、もう二十五年ほども前になる。
そこではドレスをまといダンスをし、西洋の賓客をもてなす会が盛んに開かれた。その頃から洋装はある程度広まっている。
だがその後、西洋化への反動が起こった。パーティーに出席するにしても華やかな和装がよい、というのが今の風潮。そもそも脚が見えそうなドレスを着て踊るなど日本女性の美徳に反する。
またダンスへの忌避感は男性にも強かった。妻や娘がよその男と抱き合って踊るなど許せないと考えるのが普通なのだ。
「本当に徹さんは西洋かぶれですこと! 付き合いきれませんわ」
「そうですか……では伊都子さんと出席するのは諦めましょう」
「徹」
父は困惑気味だ。独りで行くというのか。
「今どき良家の娘は着物で当然だ。我がままは言うな」
「あら、わたくし良いことを思いつきましたわ!」
怒って出て行きそうになっていた伊都子が振り返った。にんまり笑う。
「芸者にでもやらせればよろしいのよ」
「何を言う、伊都子」
伊都子の提案に父は再び困惑させられる。
人前で唄い、舞うことを身につけた芸者衆ならば西洋式のダンスができる者もいるだろう。だが藤ヶ森家にそんな人材の心当たりはない――と思ったら伊都子はあっけらかんと言い放った。
「だから茜にお命じなさいませ。あれは芸者みたいなものでしてよ? だって母親がそうなんですもの!」
得意げに笑う伊都子のことを、父と徹はそれぞれに見つめて沈黙した。
表情を硬くして伊都子は拒否した。徹の思う壺だ。
「そうですか……まあダンスをちゃんと踊るなら、女性にも洋装していただきたいところですし。伊都子さんはお嫌いでしたよね」
「洋装? そんなもの私は好きませんことよ!」
伊都子は鼻息荒く断りを入れる。徹は内心ほくそ笑んだ。
――鹿鳴館という洋館が造られたのは、もう二十五年ほども前になる。
そこではドレスをまといダンスをし、西洋の賓客をもてなす会が盛んに開かれた。その頃から洋装はある程度広まっている。
だがその後、西洋化への反動が起こった。パーティーに出席するにしても華やかな和装がよい、というのが今の風潮。そもそも脚が見えそうなドレスを着て踊るなど日本女性の美徳に反する。
またダンスへの忌避感は男性にも強かった。妻や娘がよその男と抱き合って踊るなど許せないと考えるのが普通なのだ。
「本当に徹さんは西洋かぶれですこと! 付き合いきれませんわ」
「そうですか……では伊都子さんと出席するのは諦めましょう」
「徹」
父は困惑気味だ。独りで行くというのか。
「今どき良家の娘は着物で当然だ。我がままは言うな」
「あら、わたくし良いことを思いつきましたわ!」
怒って出て行きそうになっていた伊都子が振り返った。にんまり笑う。
「芸者にでもやらせればよろしいのよ」
「何を言う、伊都子」
伊都子の提案に父は再び困惑させられる。
人前で唄い、舞うことを身につけた芸者衆ならば西洋式のダンスができる者もいるだろう。だが藤ヶ森家にそんな人材の心当たりはない――と思ったら伊都子はあっけらかんと言い放った。
「だから茜にお命じなさいませ。あれは芸者みたいなものでしてよ? だって母親がそうなんですもの!」
得意げに笑う伊都子のことを、父と徹はそれぞれに見つめて沈黙した。