温厚柔和な若旦那さまは、愛のためなら喧嘩上等!

見惚れる

  ❖ ❖ ❖


「あの……徹さま、いかがでしょう……」

 出来上がったドレスを志乃に着せてもらい、茜はおずおず徹の前に立った。
 ここはこの前と同じ、離れの応接間。窓ガラスを透けてくる秋の日が、ゆらゆらと茜を彩る。靴を履いて絨毯の上にそっと立つ茜は、絵画のようだった。

「――可憐、です」

 徹はポツリと言って、黙ってしまう。
 予想よりずっと美しくて言葉を失ったのだ。目を丸くして見つめる様子に、志乃は得意げな笑みをもらす。

 志乃が仕立てた夜会服は、小柄な茜によく似合っていた。
 フランス製の生地は愛らしい薔薇色。花と蔦の紋様が織り込まれているが布そのものは軽い。
 レースのあしらわれた立襟は慎ましく、袖はすんなりと肩から腕を包んでいた。
 前裾にはビーズを縫い留めながら白い小花が刺繍されている。その脇に重なるスカートはスッキリした形でつま先スレスレの長さ。

「細身なスカートだけど、ヒダを隠してあるから動きやすいはずよ」
「あ……ああ。そうだな」

 志乃の説明に、徹はうっかり素の自分で応えた。でも茜はそれどころではなくて気づかない。履き慣れない靴におっかなびっくりなのだ。

「転ばずに歩けるか心配です……」
「あら茜さん、そのために徹さんが横にいるのよ。突っかい棒として使ってみてね」
「え!?」

 志乃は徹を引っ張る。
 茜の隣に立たされて、徹は猫をかぶり直した。左肘を差し出す。

「どうぞ、つかまって下さい」
「え……いえ、そんな」
「そういうものなんです。西洋の作法では」

 茜は困り果てた。男性に寄り添って立ち、手を触れるなんてためらわれる。母からは日本の作法しか教わっていないのだ。

「……やっぱり私には無理です」
「あら、あたしが仕立てたドレス、無駄になっちゃうの? もったいないわあ」

 白々しく志乃が嘆く。茜は青ざめた。このドレスを買い取るとしたら茜の給金何ヶ月分……いや、年単位かもしれない。

「……僕が、嫌ですか?」

 徹から追い打ちがあった。美青年に寂しそうに言われて茜の頭は限界を迎える。何も考えられなくなってそっと手を出した。

「失礼します……」

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