温厚柔和な若旦那さまは、愛のためなら喧嘩上等!

傷つける奴がいるならば

  ❖ ❖ ❖


「聞きまして? 離れの茜さんと、徹さま」
「仲良くお出掛けですってね! 綺麗なお着物だったとか」
「徹さまったら年貢の納め時なのかしら。確かに茜さんは可愛らしいけれど」
「――あなたたち!」

 女中たちの噂話に金切り声が割り込んだ。伊都子だ。

「余計なことを話す暇がありますの? それとも永のお(いとま)がよろしいかしら?」

 居丈高ににらまれて、集まった者が散っていく。伊都子は苛々と爪を噛んだ。

「徹さんと茜なんてどちらも低い生まれでお似合いだけど、もてはやされるのは気に入らないわ。あんな……異国の血を引く男なんて、わたくしの兄でもなんでもありませんもの!」

 綺麗な顔の異母兄はフランス人の祖父を持つらしい。つまり徹の祖母はラシャメンと蔑まれた女なのだ。その血すじだけでなく、徹本人も伊都子は嫌いだ。屋敷に引き取られることで母を苦しめたから。

「……可愛い茜が襲われたら徹さんはどうするかしら。怪我もかえりみず助けるのかしら」

 想像して伊都子の目は冷ややかだった。
 遊び人の徹なら、顔に傷が残った茜など早々に捨てるだろう。調子に乗る茜がいけないのだ。
 あるいはヘラヘラした男のくせに女を庇い、怪我するのだろうか。徹の綺麗な顔がボロボロになるのは見てみたい。

 どちらでも楽しそうね、と伊都子はほくそ笑んだ。


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