温厚柔和な若旦那さまは、愛のためなら喧嘩上等!

幸せを知って

  ❖


 徹にボロボロにされた破落戸(ごろつき)が白状したことで、犯人は伊都子だと割れた。
 茜は「伊都子お嬢さまに無理やりお使いに出された」と証言したし、梅子もそれを認めている。
 言い逃れできなくなった伊都子はとりあえず田舎の別荘に送られ、閉じ込められるらしい。素行不良の令嬢など嫁のもらい手もなく、藤ヶ森の頭痛の種になることだろう。


  ❖ ❖ ❖


「茜」

 ソファに並んで座らされた茜はそっと手を握られていた。
 ここは徹の私室。連れ込まれた茜は、早鐘を打つ胸に困り果てている。頬を赤らめ、そっぽを向いてしまった。

「徹さま……手を放してくださいませんか」
「嫌だ。あんな男たちが茜の手や腕にさわったんだぞ。俺の手ですべてを拭い去りたい」

 徹はもう、素の自分を隠していない。あれだけの立ち回りを目の前でしてみせたのだから隠す必要もないのだ。
 切れのある徹の身のこなしを思い出しても、茜はまだ信じられなかった。いつもの柔和な徹と違いすぎると思う。

「徹さま……すごくお強いのですね」
「……俺は異国の血を引いているんだが」
「え?」
「祖父がフランス人でね。母はもっと濃い異国風の顔立ちをしていた。だから俺も子どもの頃はいじめられていて」
「そんなことが……」
「イチャモンつけてくる奴はとにかくぶっ飛ばしていた。おかげでガキ大将に成り上がったのさ」

 ニヤリとされ、茜は泣きそうになった。
 蔑まれ、きっとすごく悔しかったろうに。少年の徹が健気で愛おしかった。
 歪めてしまった茜の目の端を、徹の指が拭う。

「どうして泣くんだ」
「……徹さまが、とても頑張ってらしたからです」
「何を言うやら。茜だってそうだろう」

 徹が茜に惹かれたのも同じ理由だ。茜は首を振って謙遜するが、やっとそれを伝えられて嬉しい。
 徹は覚悟を決めた。こうなったら何もかもさらけ出し、茜を口説き落とすまで。

「そうだ……茜は酔っぱらいに絡まれたこともあったな。確かあの時は羽交い締めにされていた」
「――! 徹さま、やっぱりあの時の方は――」

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