温厚柔和な若旦那さまは、愛のためなら喧嘩上等!
茜がハッとする。
すごく徹に似た面差しの着流しの男。荒々しいが洗練された人だった。別人のようで本人のようで確信がなかったが――。
「あれは俺だよ」
徹はフッと笑った。すがめた目で茜をとらえる。有無を言わせず抱きすくめた。
「あ――徹、さま」
「あの分の禊もしないと。ちくしょう、あの時の男、もっと痛めつけておけばよかった」
「そんな……」
「俺が怖いか?」
腕をゆるめないまま、徹は尋ねた。しばし考えた茜は首を横に振る。
徹の力は強い。喧嘩も強いようだ。でもこの人の腕の中は居心地がいい。
ずっとこうしていたくなってしまうほどの愛おしさが心にあふれ、苦しくなった。
「……私を守ってくださったんですもの」
茜がもらした声は切なげだ。徹の胸に嵐が起こる。このまま、という衝動に耐え、気持ちの限りを伝えた。
「これからも茜を守らせろ。俺と……共に生きて欲しい」
「でも」
茜は身じろぎする。だが徹は離れるのを許さなかった。胸におさまりながら茜はつぶやく。
「私は、弱い人間です。徹さまのように身を立てようともせず、うつむいて生きてきたんです。私などあなたにふさわしくない」
「馬鹿を言うな」
体を離した徹は鋭い目つきをし、いきなり茜をソファに押し倒す。
「あ――」
やすやすと手首を取られ動けなくなった茜は目を見開いたが、ふるえながら徹を真っ直ぐに見上げた。
「……ほらな。茜は逃げてなどいない。力で俺に敵わなくても、心は強くあろうとするじゃないか」
「徹さま……私……」
「俺が嫌いか」
その問いを、茜はかすかな動きで否定する。気持ちに嘘はつけない。
――そして落ちてきた徹の唇。
受けとめて、茜は初めて知る幸せに蕩けた。
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
その後すぐ、徹は高井銀行からの融資を取り付けた。洋服を製造販売するための会社を設立するのだ。
ヨーロッパで作ったコネクションを使い、ミシンや生地を発注する。輸入業務は太一郎の小白波運輸の担当だ。製品のデザインと縫製指導は志乃が担うことになる。
茜の父親である銀行家茅原は、本性をあらわした青年実業家・藤ヶ森徹との縁談に諸手を挙げて賛成した。
すごく徹に似た面差しの着流しの男。荒々しいが洗練された人だった。別人のようで本人のようで確信がなかったが――。
「あれは俺だよ」
徹はフッと笑った。すがめた目で茜をとらえる。有無を言わせず抱きすくめた。
「あ――徹、さま」
「あの分の禊もしないと。ちくしょう、あの時の男、もっと痛めつけておけばよかった」
「そんな……」
「俺が怖いか?」
腕をゆるめないまま、徹は尋ねた。しばし考えた茜は首を横に振る。
徹の力は強い。喧嘩も強いようだ。でもこの人の腕の中は居心地がいい。
ずっとこうしていたくなってしまうほどの愛おしさが心にあふれ、苦しくなった。
「……私を守ってくださったんですもの」
茜がもらした声は切なげだ。徹の胸に嵐が起こる。このまま、という衝動に耐え、気持ちの限りを伝えた。
「これからも茜を守らせろ。俺と……共に生きて欲しい」
「でも」
茜は身じろぎする。だが徹は離れるのを許さなかった。胸におさまりながら茜はつぶやく。
「私は、弱い人間です。徹さまのように身を立てようともせず、うつむいて生きてきたんです。私などあなたにふさわしくない」
「馬鹿を言うな」
体を離した徹は鋭い目つきをし、いきなり茜をソファに押し倒す。
「あ――」
やすやすと手首を取られ動けなくなった茜は目を見開いたが、ふるえながら徹を真っ直ぐに見上げた。
「……ほらな。茜は逃げてなどいない。力で俺に敵わなくても、心は強くあろうとするじゃないか」
「徹さま……私……」
「俺が嫌いか」
その問いを、茜はかすかな動きで否定する。気持ちに嘘はつけない。
――そして落ちてきた徹の唇。
受けとめて、茜は初めて知る幸せに蕩けた。
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その後すぐ、徹は高井銀行からの融資を取り付けた。洋服を製造販売するための会社を設立するのだ。
ヨーロッパで作ったコネクションを使い、ミシンや生地を発注する。輸入業務は太一郎の小白波運輸の担当だ。製品のデザインと縫製指導は志乃が担うことになる。
茜の父親である銀行家茅原は、本性をあらわした青年実業家・藤ヶ森徹との縁談に諸手を挙げて賛成した。