温厚柔和な若旦那さまは、愛のためなら喧嘩上等!
「おや」
母屋の玄関先に茜たちが戻った時だった。戸が開いて、男性が入ってくる。ピシリと洋装を着こなす若い人だった。
背が高く、物静かな雰囲気。ととのった顔立ちはやや色白で、白皙の美青年とはこのような人のことを言うのかもしれない。
だがその麗しいかんばせに茜は目を疑った。
(――朝、助けてくれた人に似ている?)
まじまじと見つめて動けなくなる。だけどそんなはずは――。
顔立ちはそっくりな気がした。
でもあの人は銀鼠の着流し姿、この男性は洋装。
凄みがあり喧嘩慣れした身のこなしだったあちらに比べ、この人の物腰柔らかなことといったら。
「――そちらは新しく来た方ですね。よろしく」
「徹さまですよ」
梅子がそっとささやいてくれた。茜はハッとする。この方が。
「おや梅子さん、僕のことを何か吹き込んだんですか」
「とんでもございません。徹さまはとてもお優しいと伝えてあるだけですわ」
「本当かな? こちらの人は身構えたようですが」
「……失礼いたしました。本当に気さくにお声がけくださるので驚いただけなのです。お許しください」
茜は慌てて言い訳する。クスクス笑う徹は、細めた目で茜のことを見つめた。
「そういうことにしておきましょうか。あなたの名は?」
「……茅原、茜と申します」
父の姓、茅原を名乗るのはまだ慣れない。ぎこちなく一礼する茜に、徹は軽くうなずいた。
「では茜さん、これからよろしく」
奥へ向かう徹が脱いだ靴を、梅子がサッとそろえる。そういうのも女中の仕事のうちだ。
徹を見送って、茜は奇妙な胸の高鳴りを感じた。
――これまでとはまったく違う生活が、この藤ヶ森の家で始まるのだ。