藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
推理
『はるとになら抱かれたかった』

デスクに戻った俺の頭の中で、先程聞いた片瀬くるみの言葉がエコーでこだまする。

金曜の夜の出来事をこの週末で昇華し、気持ちを入れ替えて出勤した矢先のことだった。

まずは赤石千夏にお金を返そうと近づき、そこでまたもや、片瀬くるみにやられるとは……

(二人はきっと、金曜日のことを話していたんだよな?)

タクシー代をスマホで送金していたようだから、間違いなく話題は金曜日のことだったはずだ。

その流れであのセリフ
『はるとになら抱かれたかった』

もしや、本当に片瀬くるみは俺を狙っているのか?

それならそれで受けて立つ。
頼むからわかりやすく告白してくれ。

そう思っていると、片瀬くるみがきれいな姿勢でこちらに向かって歩いて来るのが見え、俺は慌てて居住まいを正した。

「藤木部長」

いつもと変わらず、ブラウスに膝丈のタイトスカートというオフィススタイルで、きちんと両足を揃えて俺のデスクの前に立つ。

「なんだ?」

よし、来い!
俺は戦闘態勢に入った。

「赤石さんから話を聞きました。金曜日は大変ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありませんでした」

美しい姿勢で深々と頭を下げる片瀬くるみ。

「いや、構わない。管理人さんに立ち会ってもらって、君を部屋に運んだ。あとのことは管理人さんに任せて、すぐに帰っただけだから」
「そうでしたか。本当にありがとうございました」

……で?

次の言葉を待っていると、片瀬くるみは「以後ご迷惑をおかけしないよう、改めます。本当に申し訳ありませんでした。それでは、失礼いたします」と再びお辞儀をしてから席に戻る。

……え?

あの言葉はどうした?
俺に抱かれたかったんじゃないのか?
なのになぜ、そんなにもスーンとしている?

俺はまたしても、頭を抱える羽目になった。
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